『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

衝撃のエンディングで世界中のプレイヤーを驚嘆させた前作から7年、PS4®の集大成としてノーティードッグが渾身の力を込めて放った『The Last of Us Part II』。前作ではまだ14歳だったエリーが19歳となり復讐の旅に出る本作では、途中プレイアブルキャラクターがエリーから復讐相手のアビーへと変わる。双方の視点で物語を体験したプレイヤーが、その旅路の果てに見たものとは。

TEXT: TOTSUKA GIICHI
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI

©2020 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog, LLC.


前作をプレイした時、その完成された世界に「2は作らないでほしい」とまで感じていたというクリエイティブディレクター・本山敬一。そんな本山は、本作をどう読み解いたのか。本山が語る『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

暴力という自然現象に対峙する物語

—— 『ラスト・オブ・アス パートII』(以下『ラスアスII』)はどのようにプレイしたのでしょうか?

「発売週の金曜夜から月曜夕方まで、3日間10時間ずつ、ぶっ続けでやりました。難易度はノーマル。特にプレイヤーがアビーに変わってからは、その意外性も含めて、気が狂うほど面白かったです。ステルスキルがしやすくなったくらいで、基本的なリズムやサイクルは前作(『ラスト・オブ・アス』)から大幅には変わっていません。ただ、物語に対する共感度……キャラクターとプレイヤーの距離感は完全に別物です。前作はジョエル(主人公)になりきれたけど、今作は二人の主人公のエリーにもアビーにも共感しきれない。その距離感は、ものすごく緻密に設計されているなと思いました。前作のジョエルが常に迷いなく行動するのに対して、彼女たちの言動と行動はつねにブレ続けているんです。

前作が映画でいえばアカデミー賞の作品賞や脚本賞を取れそうな感動作だとすると、今回はカンヌのパルムドール。特にラース・フォン・トリアーや、ミヒャエル・ハネケ、最近だとリューベン・オストルンドの作品のような“共感をあえて拒絶していくスタイル”ですね。やっていて気持ちよくなるゲームではないというか、プレイヤーに強烈な違和感を突きつけてくる。自身の人生や価値観に揺さぶりをかけてくるタイプの作品です。AAAタイトルのゲームとしては珍しくそっちに突っ込んできたなと」

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

—— 現在ネットに散在する感想は、まさにその点をネガティブにとらえている意見が目につきます。

「テーマドリブンで作っているので、テーマにキャラクターが殉じている。実際、前作のキャラを愛している人から見ると『おいおいそれはないよ』ということが次々と起きる。でもそこは逆にゲームとして一歩進んだのかなと思っています。『UNDERTALE』のような例外はもちろんありますが、ゲームの主人公は基本的に自分で操作するからこそ、その世界の価値観における“正義”の側として目的を達成していく。この気持ちよさがゲームの魅力ですよね。一方、今作はわざとプレイヤーを気持ちよくさせまいとしているとしか思えないストーリーなんです。その異物感というか違和感が、他のゲームや、ゲームに限らずすべてのコンテンツの中でも、体験したことのないレベルの凄みを生んでいる。それは『ラスト・オブ・アス』(以下『ラスアス』)というシリーズの根底にあるテーマを、一作目から更に深堀りする方向で描いた結果だと思っています」

—— ずばり、『ラスアス』シリーズのテーマは何だと思いますか?

「人は暴力へ逃避することなく生きられるか、ですかね。アメリカに、コーマック・マッカーシーという作家がいて、彼はすさまじい暴力描写の中で“倫理とは何か”を常に問うているんですが、『ラスアス』の世界観は彼の小説『ザ・ロード』に強い影響を受けていると思います。作品によっては、5ページごとに人が殺される。そんな彼の小説を読んでいると、人の暴力の連鎖が倫理を超えて、動物の弱肉強食のような“自然現象”に思えてくるんです。ホッブズじゃないですが、暴力が人の本性だとしてそれを乗り越えられるかどうか、をマッカーシーも『ラスアス』も問うてくる。

『The Last of Us Part Ⅱ』が今プレイすべき衝撃作である理由

前作の最後でジョエルは『俺は生きるためにずっと戦ってきた。何があっても戦う目的を見つけなきゃダメなんだ』とエリーに言い聞かせます。確かにジョエルは圧倒的な迷いのない暴力でエリーを守り続ける。エリーのために戦うと決めたら、正しいか正しくないかを超えて、突き進める強さがあります。それは同時に、戦いに没頭してすべてを忘れたい、という弱さでもある。

『ラスアスII』のエリーは……アビーもそうなんですけど、戦う目的に対して没頭しきれない。エリーとアビーは常に迷い、行動も徹底していないように見える。そこをもどかしく感じる人もいるのかもしれません。ただその迷いこそが、極限の状況の中で戦いに没頭せず、倫理的に立ち止まることはできるのか、という“問い”を生んでいます。前作でジョエルはエリーのために何人も殺しているのですが、もう一度同じことをすると断言できるほど迷いがないので、“問い”は生まれない」

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

表情が語るストーリーの“進化”

—— 世界の大前提としてある“暴力”へのアプローチが、前作と今作の違いなんですね。

「今作ではWLF(ワシントン解放戦線)とセラファイトは泥沼の闘争状態になっています。二人は感染者の襲撃も両グループの襲撃も、同じ戦闘としてクリアしていかなければならない。このプレイ体験は人間と感染者の境目をなくして、闘争状態がいかに自然なことなのかというテーマを浮き彫りにしていきます。

ちなみに、いわゆるゾンビではなく、あくまでキノコである冬虫夏草をモチーフにした“感染者”としたのは、自然現象として描きたかったから。ゾンビだと“オカルト”になってしまうんです。特に今作では、感染者を“ワタリドリ”として描写したり、襲われた直後に『自然マジファック』みたいな台詞を言ったりと、パンデミック後に生まれたエリーたちの世代にとって感染者の存在は恐怖の対象ではなく、あくまでも作業の邪魔をする自然現象として捉えているような描写が多いのにもグッときました」

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

—— グラフィック面で、今作が前作より進化したと思うポイントはどこですか?

「表情ですね。エリーは複雑な感情を持っている主人公です。前作では自分だけ生き延びた挙句、意識がないうちに物事が進んで勝手にジョエルに助けられる。ネタバレしないように詳しくは言いませんが、“自分が生きた証を残す機会”を奪ったジョエルを許していないんです。だから決してジョエルのことをお父さんのような存在として好きなわけじゃない。この関係も絶妙なんですよね。そしてジョエルのように非道にはなりきれないから、復讐のシーンのたびに隙が生まれてしまう。エリーほどに複雑な内面のキャラクターはゲームにはなかなかいないです。

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

そんな内面を表現するフェイシャル(キャラクターの表情変化)のグラフィックは、ゲーム史上に残るレベルのクオリティです。とくにエリーの眉間。眉間ひとつをとっても、ものすごくたくさんの描き方がある。殺す時、迷う時、自分に怯える時。ここまでくると、グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』のカフェシーンのように、表情の情報量だけで、何分間でも人を引き付けられる。

従来のゲームでは、喜怒哀楽をカメラワークやアクション、セリフで補完していましたが、『ラスアスII』では逃げずに表情で勝負しているんです。自分への嫌悪と相手への憎悪が同居した複雑な表情がしっかり描けている。最近のゲームの多くは“実写みたい”なグラフィックと言えますが、表情はまだまだ不気味の谷を越えていない。今作のグラフィックの進化は、実写の表情の情報量に近づけているので、単純にすごいと思います」

『The Last of Us Part Ⅱ』が今プレイすべき衝撃作である理由

—— ただ綺麗になったとは違う、と。

「そうですね、複雑になったキャラクターの内面を描くことに注力している。美術のリアリティもすごいんです。このゲームは資源を補給するために道中すべての建物を探索できる構造になっているんですけど、それぞれどんな人間が住んでいて、パンデミックの後どんな最期を迎えたかがわかるよう、美術が完璧にデザインされていました。家をリアルに再現するのは普段映像を作っていても悩みのポイントです。“リアルな人の部屋”はつくるのが本当に難しい。部屋には人生そのものが反映されますからね。その人が普段どんな本を読んでるのか、どんな料理をつくっているのか。撮影であれば、結局、人が住んでいる家をそのまま借りて撮るのが一番リアルなんですけど、『ラスアスII』ではクリエイターが全てデザインしている。つまり、一人一人の住人の生き様と死に様をきちんと決めた上で作業しているってことです。プレイしている間、この点にずっと感動していました。これほどの作品スケールでここまで細部を徹底してつくり込むのは本当に想像を絶する作業量だと思います」

『The Last of Us Part Ⅱ』が今プレイすべき衝撃作である理由

映画を志向し映画を凌駕した体験

—— 表情や美術での細かい描写を徹底している『ラスアスII』はゲームの最先端だと思われますか?

「うーん……。ゲームの最先端って、“これが最先端だ!”と名指しできない時代になっていると思います。例えば『フォートナイト』とか『Apex Legends』とかのバトロワ系も最先端のゲーム体験ですよね。『ラスアス』のようなストーリーはないですが、プレイヤー一人一人の中で忘れられないストーリーが対戦ごとに生まれます。特に勝利した時の感動は一生心に残る。技術的な面では、ARやVRもまだまだ可能性を秘めている最先端だと言える。一つの方向への進化ではなく、いろいろなタイプの感動を与えてくれる多様なゲームがたくさんある今の状況はとても豊かなんじゃないかなと思います。『ラスアスII』のように、プレイヤーを気持ちよくするだけじゃないハードなゲームが出てきて、ますますゲームの可能性は広がったと思います」

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

—— 次世代機PlayStation®️5の情報も徐々に出始めてきていますが、今後こういうタイプのゲームには進化の余地があると思いますか?

「大衆芸能は国が守らないとだいたい50年が寿命だという説がありますが、ゲームは停滞することなくアップデートされ続けています。テクノロジーと表現が手を取り合っているから、古びないんです。新しいハードが出るたびに、ゲームでしかできない新しい体験が生まれていく。とはいえ、進化をきちんと感じるにはゲームをプレイし続けるしかない。メタスコアやアワードは勿論参考になりますが、ゲームの評価はその性質上とても難しい。一度クリアして辞めた人と、トロフィーをコンプリートするまでやり続ける人、マルチプレイで最強を目指す人とでは、全くプレイ体験が異なるし、評価も異なります」

—— だからこそ多くの人が、新作・話題作を自分の視点でプレイすることに大きな意味がある。

「そうですね。『ラスアス』に関して言えば、普段ゲームをやらない人にこそ、前作と今作をまとめてやってほしいなと思います。いろいろなカルチャーにアンテナを張っているのにゲームだけはやらないって人、結構多いじゃないですか。少なくとも『ラスアス』は、どんなコンテンツに時間を使うよりも、はるかに有意義で衝撃的な時間を過ごせるはずです」

『The Last of Us Part II』が今プレイすべき衝撃作である理由

The Last of Us Part II
ノーティドッグが開発し、ソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売中のPlayStation®️4用ゲームソフト。謎の感染爆発により荒廃した米国を舞台に繰り広げられるサバイバルアクションゲーム。
https://www.playstation.com/ja-jp/games/the-last-of-us-part-ii-ps4/

<プロフィール>
本山敬一
SIX inc.クリエイティブ・ディレクター。 ポケットモンスター ソード・シールド グローバルCM、2018年紅白歌合戦グランド・オープニング、amazarashi武道館公演『新言語秩序』、BEAMS 40th今夜はブギーバック、Pokémon GOグローバルトレーラー、PlayStation®4日本ローンチキャンペーン、Google Chrome 初音ミクなど。カンヌ、ACCをはじめとした国内外のアワードで受賞多数。
http://sixinc.jp/people/569/

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[脚注]

ラスト・オブ・アス
2013年にPlayStation®️3専用ゲームとして登場し、翌年PlayStation®️4専用のHDリマスター版が発売された。謎の寄生菌のパンデミックにより荒廃したアメリカを舞台に、強面の中年男性・ジョエルが14歳の少女・エリーと共に感染者、略奪者と戦いながら旅をする。全世界で200以上のゲームアワードを受賞した傑作サバイバルアクションの決定版。
https://www.jp.playstation.com/scej/title/thelastofus/

ラース・フォン・トリアー
デンマークの映画監督。現在64歳。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を2000年に発表し、第53回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。他作品に『ドッグウィル』(2003)、『ニンフォマニアック』(2013)や『ハウス・ジャック・ビルド』(2018)など。「映画は靴の中の小石でなければならない」と語っている。

ミヒャエル・ハネケ
オーストリアの映画監督。現在78歳。『白いリボン』(2009)と『愛、アムール』(2012)の2作連続でカンヌ国際映画祭にてパルム・ドールを受賞。1997年に発表した『ファニーゲーム』は、カンヌでの上映時にあまりの不快さで退席者が続出したという。最新作『Happy End』の製作を発表している。

リューベン・オストルンド
スウェーデンの映画監督。現在46歳。『フレンチアルプスで起きたこと』(2014)が第67回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映、審査員賞を受賞。次作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017)で第70回カンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。

『UNDERTALE』
モンスターの住む地下世界からの脱出を目指し旅する人気RPG。出現したモンスターと闘うか否かを選択することができ、モンスターの希望を叶えることで平和的に解決させて別れることも可能。キャッチコピーは「誰も死ななくていいやさしいRPG」。
https://undertale.jp

コーマック・マッカーシー
現代の米文学を代表する小説家。現在86歳。大学中退後4年間の従軍を経験し、その後作家の道に進む。2005年発表の小説『血と暴力の国』は、コーエン兄弟によって2007年に映画化され(邦題『ノーカントリー』)、アカデミー賞最優秀作品賞他多数の賞を受賞した。『血と汗とピクセル』(著・ジェイソン・シュライアー)によれば、『ラスアス』の企画は「『ノーカントリー』のようなゲームをつくりたい」という思いからスタートしている。

ザ・ロード
コーマック・マッカーシーが2006年に発表した小説。植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われ廃墟と化した世界を南へと旅する父と子の、その道程を描く。マッカーシーは本作でピューリッツァ賞を受賞。

トマス・ホッブズ
17世紀ヨーロッパで活躍した英国の哲学者、政治思想家(1588-1679)。1642年発表の『市民論』、1651年発表の『リヴァイアサン』でホッブズは、人間の自然状態としての闘争を説き、「万人の万人に対する闘争」という仮説のもと、人間はその状態から脱却するために “国家”と社会契約を結んでいるものとした。

グザヴィエ・ドラン
カナダの映画監督。現在31歳。幼少期から子役として映画やTVに出演、19歳の時に自身で主演・脚本も務めた初監督作品『マイ・マザー』(2009)が第62回カンヌ国際映画祭にて上映され、“カナダの神童”として世界的な注目を集める。他作品に『胸騒ぎの恋人』(2010)、『Mommy』(2014)、『ジョンF・ドノヴァンの死と生』(2019)など。

わたしはロランス
グザヴィエ・ドランの長編映画3作目(原題『Laurence Anyways』/2013年日本公開)。「女になりたい」とパートナーに打ち明けた男性教師・ロランスと、そのパートナー・フレッドとの、10年にわたる愛を描いたラブストーリー。第65回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映され、フレッドを演じたスザンヌ・クレマンが同部門の最優秀女優賞を受賞した。
https://www.uplink.co.jp/laurence/

不気味の谷
ロボット工学者の森政弘が1970年に提唱した心理現象。人間の外見に似せて作られた像や動きに対して、その精度の高さがある程度を過ぎると、親近感や好意ではなく違和感、嫌悪感、恐怖感といった否定的な感情を抱くという、人間の感情的反応。

フォートナイト
米・エピックゲームズが販売、配信するオンライン対戦ゲーム。現在、世界で3億5千万人以上の登録数を誇る。「世界を救え」、「バトルロイヤル」、「クリエイティブ」の3種のモードがあり、闘うだけでなくゲーム内で階段や床、壁、天井を建築したり、逆に家屋やビル、木、車を破壊することも可能。eスポーツとしてプロチームも多数存在する。
https://www.epicgames.com/fortnite/ja/home

『Apex Legends
米・EAが配信する基本プレイ無料のオンライン対戦ゲーム。開発は『タイタンフォール』シリーズで知られるRespawn Entertainment。ゲームモードは3人1組のトリオのみ、全20組の同時対戦が基本。キャラ別の特殊能力や初対面同士のチームプレイをサポートする機能なども話題を呼び、配信開始からわずか1週間でプレイヤーは2500万人を超えた。
https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends