2月2日(土)、Rainy Day Bookstore & Caféにて三味線奏者・こうの紫のライブ「紫の會」を開催します。ゲストに花柳中太郎(日本舞踊)、島村聖香(邦楽囃子)、望月美沙輔(笛)を迎え、女性四人の構成で送る演奏会のテーマは“女”。古典作品やお座敷唄に秘められた愛憎入り混じる恋愛のストーリーについて、説明を交えながら演奏を聴く贅沢な時間をお届けします。ライブに向けて、こうの紫に邦楽や三味線への思いを訊きました。
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三味線のいろは
—— まずは三味線について、どんな楽器か教えてください。
三味線は、動物の皮を張った胴と木製の棹からなる、名前の通り三弦の楽器です。撥を使って鳴らします。
まず、特徴の一つは黄色い弦です。絹でできていて、もとは白い素材なのにわざわざ黄色く染めています。防虫のために昔はウコンで染めていたことがこの“黄色”の所以です。
胴に張られている皮は四ツ皮(猫の皮)または犬皮。猫はお腹の皮を使っているので、よく見ると四つの乳首の黒い跡があります。犬皮は背中の皮を使うので本来は黒い跡はないのですが、四ツ皮の三味線の方が上等だと言われているので、犬皮も四ツ皮に見えるように楽器を作るときにわざと四つの点を描く習慣もあります。よく見れば違いがわかるんですけどね。
棹も楽器のランクによって使われる木材は違いますが、紫檀や紅木などの硬い木を使います。胴だけは花梨というもう少し彫りやすい材木を使います。胴の中には溝(杉綾)がたくさん彫られていて、それによって音が共鳴します。
また、三味線は「サワリ」と言って、ビョーンという独特な残響音が特徴で、これにはとても神経をつかいます。雑音にも取れるこの「サワリ」があるからこそ、三味線らしい音色となります。
三味線と仲間との出会い
—— こうのさんがその三味線を始めたきっかけは何だったのでしょうか。
私が始めたのは中学生の時。実は、最初は舞踊をやりたかったんです。関西発祥の地唄舞という踊りがあって、それをNHKの番組で吉村雄輝さんが踊っているのを見た時に、衝撃を受けました。テレビが壊れてしまったかと思うくらい動かない、というかゆっくりな動きで、「なにこれ!」と。それで親に踊りをやらせてほしいと頼んだのですが、踊りをやるにはその音楽を知らなければいけない、まずは三味線から始めてみようということで三味線の先生のところに通い始めました。そのうち第一目的ではなかった三味線にはまってしまい、今に至ります(笑)。
—— その後、美大に進まれて絵も描かれます。
美大に進学して東京に来て、地元の札幌の三味線の師匠が亡くなってしまったこともあり、目白にある現代邦楽研究所というところに通い始め、現在の師匠にも出会いました。そうやって絵と三味線は並行して続けていて、三味線の音をテーマにした絵画作品なども描いていました。
今回ゲストにお呼びした花柳中太郎さんとも、彼女も日本画を描かれるので、その繋がりで知り合いました。
—— その花柳中太郎さんも含め、今回は4人での邦楽・邦舞のライブになります。邦楽って、楽器構成や人数などに決まりはあるのでしょうか。
まず、踊りがある曲とない曲があります。でも本来踊りのない曲の場合も、師匠さんや師範クラスの先生方が、所属している流派のやり方で振りを創作して踊ることも多々あります。それぞれの流派で、この曲にはこの振り付け、と決まっているものは忠実に守られ伝わっていきます。
楽器も同様で、たとえば「この曲にはお囃子がないから足してくれる?」といった感じで、演奏家がその場で音を作っていくことも多いです。バランスを見ながら曲を作っていきます。
町角から聞こえてくる音楽へ
—— 今回はどんな演奏会になりますか?
テーマは「女」です。三味線には歌舞伎のバックミュージックである長唄から、小唄端唄などのお座敷唄まで様々なジャンルがありますが、ジャンルに関係なく恋愛がテーマの曲が多く存在します。「恨む女」「可愛い女」「空気読めない女」「タフな女」、、のように様々な女が登場します。そんな女たちのストリーを演奏家・舞踊家による解説と演奏でお送りしたいと思っています。また、お座敷唄には本唄とは全く異なる替歌が主流になっている曲も多く、ただ歌詞を見ても解らないけれど、実は裏に全く別の意味が隠されていて、そういった演目についても説明しながら、邦楽について知っていただけるようなトーク&ライブのようになったらいいなと考えています。もっと色々な方に邦楽を知っていただきたいという思いがあります。
—— 邦楽というと、あまり馴染みがなかったり、敷居が高いと感じてしまう方もいますよね。
そうなんです。先ほども少し話しましたが、近年邦楽は下火になっていて、演奏する人、楽器を作る職人さんなどが減ってきてしまいました。堅苦しい、お金がかかる、窮屈、といったイメージがまだまだあるんですね。でも、自分が子育て中ということもあって最近なんとなく感じるのは、子どもの習い事の選択肢として日舞や邦楽を習わせるという親が増えてきているのかな、ということ。かっこいいと感じてくれる人も出てきたのかもしれません。教える側も、すごく高いお月謝でもなく、日本舞踊で言えば会に必ず出なさいとか、名前を取りなさいとか、そういう強制的なことを抜きにして、習いやすい環境を作ってくれる師匠が増えてきているようにも思います。
国の決まりで小中学校でも邦楽を学ぶようになっていますが、実はそこが重要な気もしています。子どもの頃に聴いたり見たりした印象って、大きくなっても覚えている。演っている人がかっこ悪かったり、つまらないと思われてしまうと、その印象がずっと残ってしまうんです。だから、私も小中学校に教えに行く機会ではとても気合いが入ります。
—— 演奏会をしたり、講師として教えたり、邦楽を広める活動をされているんですね。今後、三味線、そして邦楽の世界をどうしていきたいですか。
三味線って、少し違和感のある音だと思うんです。普段そんなに聞きなれない音ですよね。この独特な音をまずは体感してほしい、と思っています。古い小説なんかには「町の中から三味線の音色が聞こえてきた」みたいな描写があったりする。素敵ですよね。一時期はピアノの音が聞こえたりしていましたが、最近は防音をしたり、それぞれがヘッドホンで音楽を聞いて、音が遮られてしまっている気がします。
だから町や地域の中で、音がもっと増えていって、その中に三味線、邦楽の音もあったらいいなと思います。そうするにはまず弾く人を増やさなければいけない。そのための草の根運動みたいに、こういう演奏会で邦楽に出会う人を増やしていきたいです。
イベント詳細
日程:2019年2月2日(土)
①紫の會4『昼の部』12:30 開場 13:00 開演
②紫の會4『夜の部』16:30 開場 17:00 開演
*各回定員40名。先着順。
三ツの車(小唄)/ 蛇山(俗曲)/ 香に迷う(端唄)/ おてもやん(民謡)
鷺娘(長唄)/ 娘道成寺(長唄)/他
会場:Rainy Day Bookstore & Café
東京都港区西麻布2-21-28 スイッチ・パブリッシングB1F
参加費:3,500円(ドリンク代は含まれません)
申込方法:
タイトルを「【紫の會】」とし、氏名・参加希望回(①または②)・年齢・ご連絡先・参加人数を下記アドレス宛にお送りください。追って、こちらからご連絡いたします。
rainyday_info@coyoteclub.net
問い合わせ:03-5485-2100
プロフィール
【こうの紫(唄・細棹三味線)】
札幌市生まれ。中学より長唄を今藤長三四氏に師事。現代曲・お座敷唄(小唄・端唄・俗曲)を山本ゆきの氏に師事。現代邦楽研究所卒業。女子美術大学大学院・修士課程美術研究科修了。三味線弾きトリオ「三味線なでしこ」メンバーとして学校公演・音楽イベント等に出演。「紫の會」毎年開催中。映画、ミュージックビデオ出演、国内・海外にてコンサート、ライブ活動を行う。音緒乃会所属。女三味線弾き「ねのいろ」メンバー。現在は札幌と東京を拠点に活動。
オフィシャルサイト
【花柳中太郎(日本舞踊)】
花柳流師範。筑波大学芸術専門学群視覚伝達デザインコース卒。NHKアートにて報道番組デザイナーとして勤務したのち、日本画の制作を始め、 中千尋の名で国内外にて展覧会を行っている。また、美人画に関する研究調査や執筆、講演を通じて美人画の普及に努めている。
オフィシャルサイト
【島村聖香(邦楽囃子)】
広島出身。邦楽囃子を望月彦十郎師に師事。望月彦聖として古典活動を行う。江戸祭囃子を故丸謙次郎師に師事。能楽小鼓を成田達志師に師事。長唄を吉住小美裕師に師事。端唄・小唄などお座敷唄を山本ゆきの師に師事。東京芸術大学音楽学部邦楽科邦楽囃子専攻卒業。同大学大学院音楽研究科修了。音緒乃会所属。女三味線弾き「ねのいろ」メンバー。邦楽囃子「歳松会」会員。日本音楽集団団員。聖の会主宰。小中高等学校などでもワークショップを行い次世代に邦楽器や伝統音楽の魅力を伝える事にも力を入れている。
【望月美沙輔(笛)】
6歳より望月太喜輔師に師事。東京藝術大学邦楽科卒業。国立劇場研修養成科講師。浅草hibikus邦楽教室講師。社団法人長唄協会会員。古典音楽を中心に国立劇場、明治座、NHK録音等全国各地で活動。また文化庁公演にて中国、韓国、フランス公演等、海外各国でも公演を重ねる。後進の指導にあたり、東京藝術大学音楽学部邦楽科への入学者など次世代の笛奏者を世に送り出している。