キリンウイスキーが体現する、富士山麓のテロワール(自然環境)を生かしたウイスキーづくり。 昨年には地元の御殿場産大麦を使った仕込みも開始。すべてを同地で完結する“純御殿場ウイスキー”実現への大きな一歩を踏み出した。
TEXT: NISHIDA YOSHITAKA
地元農協との長期契約を締結
フラッグシップとなる「富士」ラベルに表記される「The gift from Mt. Fuji」の文字。富士御殿場蒸溜所が操業を開始した1973年から、キリンウイスキーでは変わらずに、富士の恵みを生かしたウイスキーづくりを続けてきた。仕込み水に使用されるのは、富士山に降り積もった雪解け水が地中深く染み込んだ伏流水。さらには標高682メートルに位置する富士御殿場特有の、寒暖差が大きく朝晩は深い霧に覆われる湿潤な気候が、長い時間をかけてゆっくりとウイスキー原酒を磨き上げる。まさにウイスキーづくりにとって理想的ともいえるテロワール、そして先人たちが目指した“クリーン&エステリー”という理念のもと育まれてきたのが、清らかな飲み口とフルーティで華やかな香りを持つ、美しい味わいのウイスキーだ。
操業50周年を迎えた昨年には、御殿場産大麦(モルト)を使用した仕込みも開始。御殿場市長も出席した12月の式典では、キリンディスティラリーとJAふじ伊豆との間で御殿場産大麦の長期購入契約が結ばれ、初めて御殿場産大麦で仕込まれたニューメイクの樽詰めも行われた。
80年代にピークを迎えた後、長く低迷したウイスキー人気。「御殿場蒸溜所の歴史も苦難の連続だった」。式典に登壇したキリンディスティラリーの押田明成社長はそう明かすとともに、「苦難を乗り越えられたのは行政や地域の皆様の支援があってこそ。そうした感謝を“御殿場モルトウイスキー”という新たな取り組みで示すと同時に、我々の『富士』ブランドを通して、富士御殿場の魅力を世界に向けて発信していきたい」と、今回の取り組みへの強い思いを語った。
完全に反映されるテロワール
50周年の節目に、木桶発酵槽や新たな蒸留器の導入など、大規模な改修と設備増強を完了した富士御殿場蒸溜所。そんな同蒸溜所にとって御殿場産大麦は、富士山麓のテロワールを生かしたウイスキーづくりのさらなる可能性の扉を開いてくれる重要なエレメントだ。
「地元産の大麦を使ってウイスキーをつくりたいという思いはずっと持っていましたが、もともとの仕込みサイズでは大麦の量を確保するのが難しい状況でした。今回の改修で小型のポットスチルや木桶発酵槽などを導入し、すべての条件が揃ったタイミングで地元の農家さんとのご縁に恵まれたのです」
そう話す洋酒生産部の藤井聖氏によると、今回、仕込まれた御殿場産大麦は約6トン。木桶発酵槽で蒸溜所が所有するエール酵母を使って発酵を行い、蒸留にはストレートネックの小型ポットスチルを使用。藤井氏が、「冠雪する朝の富士山の景色を思わせるような繊細で優しい味わい」と表現するニューメイクは、蒸溜所内に新設されたばかりの樽工場で製造された、特別な樽での熟成を行う。
この樽は、御殿場蒸溜所のヘビータイプのグレーンウイスキーを熟成させた新樽を、少し大きめに組み替えたホグスヘッド樽。仕込み水や大麦に加え、熟成に影響する樽の履歴にも気を配ることで、すべてにおいて富士御殿場のテロワールを反映したウイスキーづくりを実現する。
「熟成のピークを見極めたうえで、5年後には何らかの形で製品化できればと考えています。御殿場産大麦を使った仕込みは今後も続けていきますし、大麦生産者の方々との連携も進めていきたい。将来的には蒸溜所にお越しいただいた皆様に、富士山を眺めながら“純御殿場産ウイスキー”を味わっていただくような取り組みもできたら面白いのではないかと思っています」(藤井氏)
蒸溜所からほど近い、富士山麓の恵まれた大地で育つ“御殿場モルト”。キリンのウイスキーづくりを進化させる“富士山からの贈り物”が、また一つ新たに加わった。
KIRIN JAPANESE WHISKY FUJI
富士の自然の神秘と受け継がれる匠の技が生み出す美しいジャパニーズウイスキー。
多彩なグレーン原酒とモルト原酒が織りなす、3つのスタイルのウイスキーが展開されている