1973年の操業開始以来、時代の荒波を乗り越えてウイスキーづくりの歴史を紡いできた富士御殿場蒸溜所。歴史と想いを継承するつくり手たちが創造するのは、キリンウイスキーの輝かしい未来だ。
TEXT: NISHIDA YOSHITAKA
ウイスキーをつくれる幸せ
グレーンウイスキーの蒸留に使用する3タイプの蒸留器に加え、モルトウイスキー用のそれぞれにタイプの異なる6基のポットスチルを擁し、富士山麓の類まれなるテロワールを生かしたウイスキーづくりを行う富士御殿場蒸溜所。今や世界中でウイスキーの蒸溜所が稼働しているが、これだけ多様な設備を駆使し、多様な原酒のつくり分けを行う蒸溜所は他にない。もちろんその分だけオペレーションは複雑になるが、「先輩と日々の作業を共にすることで1年以上を掛けてすべての作業を習得し、初めて一人前のディスティラーとして認められます」と、洋酒生産部の中村政雄氏は話す。
日本のキリンビール社と米国のJEシーグラム社、英国のシーバスブラザーズ社という、日米英3社が叡智を結集し、1973年に操業を開始した富士御殿場蒸溜所。ウイスキー先進国で培われた技術が惜しみなく提供され、世界でも稀な複合蒸溜所としてのポテンシャルを持ちながら、ウイスキー市場の浮き沈みに翻弄されてきた。そんな同蒸溜所の半世紀にわたる歴史において、大切に守られてきたのが“クリーン&エステリー”という香味ポリシーだ。
進化するクリーン&エステリー
富士御殿場蒸溜所の熟成庫に眠る、先人たちから受け継がれてきた十数万樽のウイスキー原酒。それらの原酒や蒸留したてのニューメイク、製品化されたウイスキーなどを絶えずチェックし、キリンが目指す雑味のない澄んだ味わいを実現していくのはブレンダーの役割となる。
「特にベースとなるクリーンな味わいについては、先輩ブレンダーと行う日々のテイスティングの中で、香りの感じ方などを擦り合わせながら、ブレンダーは皆、“富士御殿場らしさ”を継承していきます」
そう話す竹重元気氏は、RTD部門の新商品開発などに関わった後、2018年からウイスキーのブレンダーに。田中城太氏ら先輩ブレンダーの薫陶を受け、「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」や「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士」のブレンドを担当した。
富士御殿場蒸溜所では、2021年に2対4基の小型ポットスチルと木桶発酵槽を導入。50周年の節目を迎えたその2年後には、操業開始以来使い続けてきた大型のポットスチルの設備更新も行っている。
歴史や理念を継承しつつ、次代を担うつくり手たちが目指すのは、キリンウイスキーのさらなる進化だ。
「注力しているのは、飲む人に感動を与えられるフルーティで華やかな深い香味であるエステリーさの探求。我々がクリーンモルトとフルーティモルトと呼ぶ2種のモルト原酒に加え、小型ポットスチルや木桶発酵槽を使った、複雑なフルーティさと味わいを持つ新たなモルト原酒の開発を進めているところです」
そんな竹重氏の言葉通り、新しいポットスチルではキリンウイスキーの未来ともいうべきニューメイクが、次から次へと仕込まれる。
「私たちが開発した原酒が熟成を経て製品になるのはずっと先のことですが、先輩たちがそうしてくれたように、より品質の高い原酒を後輩たちに残したい」そう中村氏は言う。
伝統を継承し、未来に向けて挑戦を重ねる。ウイスキーを愛する若きつくり手たちの想いが、キリンウイスキーの新たな歴史を紡いでいく。
KIRIN JAPANESE WHISKY FUJI
富士の自然の神秘と受け継がれる匠の技が生み出す美しいジャパニーズウイスキー。
多彩なグレーン原酒とモルト原酒が織りなす、3つのスタイルのウイスキーが展開されている