昨年の秋、SWITCH VOL.38 NO.2(1月20日発売)の企画で写真家・若木信吾は小津安二郎の足跡を辿る旅に出た。自身の両親と共に巡った『東京物語』の舞台・尾道、そして小津が眠る北鎌倉円覚寺。その旅の途上で若木が目にした景色とは。若木信吾がライカSL2で撮ったスペシャルショートムービー『Footsteps of Ozu』を特別公開。
FILMED BY WAKAGI SHINGO
競馬の第二レースで選んだ競走馬の名前は「TOKYO STORY」。
儲けた金で彼らは旅に出たのだ。
両親を旅行に誘った。
久しぶりの家族旅行。
祖父が亡くなって15年。三人で旅行するのは初めてかもしれない。
二人とも、思いがけない小旅行を楽しそうにしている。
『東京物語』で年老いた夫婦が暮らしていた土地。
僕が家を離れ、祖父が亡くなってから
二人で過ごす時間はどんなだったんだろう?
笠智衆が老いた親を演じた時、彼はまだ49歳だった。
いつの間にか自分も同じ年になっていた。
小津の足跡を訪ねてきたが、
その場所には空っぽの空間があるだけだ。
「そうかねえ、そんなものかねえ」
「そうよ。そんなものよ」
人は、カメラを向けられると、理想の自分を残そうとする。
「これが本当の私です」と人々は写真家に真実を求め、
写真家はLEICAに真実を求める。
本物の老人と偽物の老人。
この夜は、家族三人川の字になって寝た。
朝日があたる。
起き掛けの両親を久しぶりに見る。
二人の時間が垣間見える。
たった一泊の小旅行でも一生残る記憶が作られる。
両親には、どんな記憶が残されただろうか?
近くでおまいりをした後、
用事があると言って二人は先に浜松に帰っていった。
山側の路地をさまよう。
地元の猫がのんびりとした午後を楽しんでいる。
古い墓地の間を消えては現れる猫に、誘われるようについて行く。
君は、僕をどこに連れて行こうとしているのか?
(『Footsteps of Ozu』ナレーションより)
2020年1月20日発売の「SWITCH vol.38 No.2」では本映像と連動したフォトストーリーや、今回の旅への思いを訊いたインタビューを掲載。併せてお楽しみください。