FROM EDITORS「わたしたちにはいつだってフランクがいる」

ロバート・フランクはフォード車を駆ってアメリカを旅しながらある種の開放感を味わっていた。山岳のスイスに生まれた彼は、長く続く一本道に心を躍らせる。誰もいない。どこでもないところがフランクの想いをその先へその先へと向かわせた。

1950年当時明確な目的もなく、一人の男が広い大陸を旅した。その行為はローカルな人々にとって奇異なことに写っていった。フランクは行く先々で冷たいそして蔑まされたもてなしを受けていく。

フランクは孤独だった。アメリカの影を彼は強く感じていった。その陰惨な世界によって、本当の日常を記録するための視線を持つという、フランクの写真術がきたえられていく。

長い旅の途上、彼は故郷の友人に宿泊先のモーテルで手紙を書いて、束の間の旅情をかみしめていった。

「僕だからこそ見えるアメリカがある。そしてそのアメリカは、あまりにも興味深い。アメリカ人ならなんとも思わないこと。例えばアメリカ人はどんな食べ方をするのか、どんなものを食べているのか、どんな風にあるのか……面白いことばかりだ。信じられないようなことも多い、実際嫌な面もある。しかし僕は目を背けずに全てを写してやろうと思う。いい面も悪い面も全てをひっくるめて、本当のアメリカなのだから」

フランクは異邦人ゆえの視線で、アメリカの日常をストレートに見ようとする姿勢を貫いた。

後日、フロリダまで旅をするジャック・ケルアックがロバート・フランクになぜ手紙を書くのかと訪ねたことがある。

彼はこう言った。

「手紙を書くことは今の自分を確認し、明日からの旅を考えることだ」

その夜、ケルアックは狂ったようにタイプライターを叩き続けていた。

スイッチ編集長 新井敏記