村上春樹の短篇に「かえるくん、東京を救う」がある。
大学を出て長く信用金庫につとめてきた片桐のアパートの部屋にある夜、東京の大地震を予知する巨大なかえるくんが現れた。かえるくんは震源地は片桐のつとめる新宿の信用金庫の真下だという。世界を救済するためにかえるくんがいる。しかし片桐さんとかえるくんとの意思の疎通は、なかなかはかれない。ときに誤解も招く。そして決裂。
かえるくんを失ってはじめて見えない世界の大切さを知る。 片桐さんはこう呟く。
「目に見えるものが本当のものとはかぎらない」
まるで「星の王子さま」のきつねのことばのようにそれはわたしたちのこころを打つ。
「とても商単なことなんだ」きつねは王子さまに言う。
「心で見ないとよく見えない。大事なことは目には見えないってことさ」
フランスのアーティストJcドゥヴニとPMGLがこの村上春樹作品を漫画にした。ヨーロッパ、特にフランスやベルギーでは漫画のことをバンドデシネ(bande dessinee)と称する。有名なバンドデシネには『タンタンの冒険』やメビウスの諸作品がある。続き漫画という意味があるバンドデシネによって村上春樹作品が寓話として表現されている。雑誌「MONKEY」では2014年10月に掲載した。次いで二人は「パン屋再襲撃」を完成させた。ならばと村上さんに提案した。「『HARUKI MURAKAMI 9 STORIES』シリーズとして、 MONKEY LABELから刊行しよう」と。村上春樹の深い闇の中に光を放つ9作品。年3回の刊行をめざし、まずは6月からスタートする。
スイッチ編集長 新井敏記