9月27日朝11時、名護市辺野古のアメリカ軍キャンプ・シュワブゲー卜の前のテントで島袋文子さんの88歳の誕生日トーカチの祝いが開かれた。雨か降ったり晴れ間が見えて風が強くなったりと沖縄らしいくるくる変わる天気だった。主催の挨拶や琉舞「櫂の鳩間節」に続いて古謝美佐子さんが登場し、「御年日ぬ唄」を静かに唄った。文子さんは今日一番の笑顔を見せ、何度も古謝美佐子さんに手を振った。古謝さんは続いて「童神」を北谷で活動をするフラ「プアミリミリ」のメンバーとともに唄った。「雨風ぬ吹ちん 渡る此ぬ浮世」と三番はまるで身を盾にして沖縄を守る文子さんへの思いを綴るものに聴こえた。「プアミリミリ」とはハワイ語で愛しい花という意味。フラは沖縄という豊かな自然の島に溶け合い清冽な透明な風を運ぶようだ。
唄い終わると古謝さんは文子さんにこう言葉をかけた。
「沖縄にはさようならという言葉はない。でもその代わりに明日またねという言葉がある。またあちゃや~。その言葉には沖縄の思いがたくさんたくさん込められている。文子おばあもこっちに来て、またあちゃや~と言っている。その思い、わたしは忘れない」
古謝美佐子さんは「日々是好日」の唄の一節をアカペラで歌う。明日もあそぼうね、また会おうね、素敵な夢見てね、おやすみね。
プアミリミリの唄手・大城蘭さんとフラ・石川麻衣子さんは文子さんが大好きな「赤田首里殿内子守唄」を棒げた。文子さんと視線を同じくする中腰の姿勢で舞う石川さんのフラは遠い場所の記憶を呼び戻すような透明な声に寄せた柔らかなもので 人々の心を静かに打つ。美しい海、辺野古の風景を象徴するように古謝美佐子さんもプアミリミリのメンバーも青い衣装を身につけ思いを繋げていた。
最後に文子さんは琉歌にこう思いをしたためた。
御万人ぬ情き
わが肝にとぅみてい
永らえていと一ぃ
基地ゆ止ぅみろ
さようならという言葉がない沖縄、悲しみをたくさん受け入れた土地には天の子守唄は数限りなく必要だったのだ。
スイッチ編集長 新井敏記