変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第9回は埼玉県越生町をレペゼンするSUSHIBOYS
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
SUSHIBOYSのトリッキーな音楽性を培った30曲
ヒップホップのクラシックからJ-POPまで、時代も場所も超越したインターネット時代にSUSHIBOYSが出会った30曲
INTERVIEW
今いる環境の中で最大限楽しむ
埼玉県のほぼ中央に位置する人口1万人ほどの越生町にあるJRと私鉄が乗り入れる越生駅。その駅前にあるロータリーに一台の軽自動車が入って来た。車から降りた3人の若者が笑顔で言う。「ようこそ越生へ。遠くまでありがとうございます」。彼らの名はSUSHIBOYS。越生で生まれ育ったファームハウス、エビデンス、サンテナからなるヒップホップユニットだ。
「3人とも小学生の頃に同じサッカー部に入っていて知り合いました。音楽に関してはそれぞれにいろんなジャンルのものを聴いていましたけど、全員共通してヒップホップやラップが好きだったんです」(ファームハウス)
「自分は中学ぐらいまではJ-POPをずっと聴いていましたが、2人がYouTubeに動画を投稿するようになり、そこにラップをする動画なんかもあって、その影響でラップにハマっていきました。当時はユーチューバーという言葉はまだなくて、動画投稿系男子というふうに呼ばれていた頃です」(エビデンス)
「動画を作って投稿する遊びの延長でラップを本格的にやり始めたのがSUSHIBOYSのスタートだったのかもしれない。今日越生に来てもらったからわかると思うんですけど、本当にここは田舎で何もない。いろんなエンターテインメントに手軽に触れる機会もないから、自分たちで0から1を作って遊ぶしかないんです。動画投稿はそういう中で見つけた暇つぶしの遊びだったんです」(ファームハウス)
田舎に暮らす若者たちにとって、YouTubeはやがて自分たちの存在を世間に向けて発信するために必要不可欠なツールになっていった。
「動画をアップすると不特定多数の人に見られるわけじゃないですか。それが再生数やコメントという形で評価されていく。そのことに対する感動が大きかったですね」(サンテナ)
「音楽の作り方もネットのおかげで知りました。スカイプで知り合った大阪のラッパーの人に機材について教えてもらい、それを買い揃えたり。だから音楽を作るということが自分たちにとっては難しいものという感覚がそもそもなかったんです」(ファームハウス)
ネットの恩恵がなかったら今のような活動もできていなかったと3人は言い切る。そんな彼らにとっての音楽をやる意味は、少しずつ変化してきているという。
「最近は時代というものを意識しながら音楽を作っていかないといけないのかなと感じ始めています。その上で、SUSHIBOYSが音楽を通して伝えたいことって何なのかな? と考えた時、自分たちが歌っているのは常にひとつのことで、それは今自分たちがいる環境の中で最大限楽しもう、ということだと気づいたんです。そのことをいろんな角度やトピックスを使って歌っているんだなって」(ファームハウス)
その言葉通り、SUSHIBOYSの最大の特徴はリリックにある。“軽自動車”、“ダンボール”、“ゲートボール”、“ママチャリ”といった「ネタ」を用いて、彼らは越生という町で生きる自分たちの等身大の姿をユニークでコミカルなトラックに乗せて描き出す。そのスタイルはまさに彼らのオリジナルだと言える。
「人と違うことをやりたくてラップを始め、映像もどんどんYouTubeにアップしていくという方法を俺たちは選んだんです。そのことを“逆の美学”と呼んでいるんです」(エビデンス)
「東京に出て行かなくても、この越生に根を張り自分たちを信じてやり続ければ、音楽を広めていくことはできる。そのやり方は間違ってなかったと思います」(サンテナ)
インターネットを武器に、軽やかに様々な境界線を飛び越えていくSUSHIBOYSの存在は、これからの時代のミュージシャンの新たな在り方を示唆しているのかもしれない。