Text Arai Natsu
7月28日の午前10時、COMME des GARÇONS HOMME PLUSのショーがはじまる。 ショーの会場は青山にある本社。ファッションメゾンの多数がオンライン配信を行う中、川久保玲は実際のショーを行うことを選んだ。
天井の剥き出しのパイプに白壁という、青山本店のようなインテリアが施されたCOMME des GARÇONSのオフィスの一角が今回のショー会場だ。カウントダウンを告げるオープニングムービーが終わると共に、舞台左右からモデルが登場する。
静電気を帯び、さかだったような金、銀、黒、茶のヘアスタイルの男たち。そのガーメントは光沢のあるメタリックシルバーのジャケットにハーフパンツ、そして少しくすんだシルバーのジャケットとサスペンダーつきのパンツ。どれもが懐かしく新鮮な印象を与えると同時に、まるで未知の世界からきた青年たちのような輝きを放っている。
5人1組にグループ分けされた彼らは必死な形相で、どこか決意を固めた戦士のようだ。コロナ禍でショーを行う川久保玲の堅牢な意志をその表情は伝え、また彼ら自身の畏敬の念も表していく。
続いて黒のジャケットにシルバーのライン、そして光沢のあるシルバーのシャツ。
銀色の折り紙を貼り付けたような遊び心のあるブルーと水色のスーツ。ライダースとテーラードを合体させたジャケットのインナーには、ネジ、パイプやボルトが描かれているTシャツ。
灰色のテーラードジャケットには襟元と袖山から、万華鏡でネジを覗き込んだような不思議なパターンが重ねられ、まるで金属の鎧を纏っているようにも見える。
ハイウエストのシルバーパンツはジャケットをインにして、工事現場で見るような縞鋼板のパターンがより強さを表現する。
ライトブルー、ライトグリーン、そしてイエローが印象的なジャケットには、それぞれテクスチャーの異なるシルバーを重ねている。袖山から刀でざっくりと切られたようにも見えるデザインは、戦いの後の戦士のようだ。
最後のルックはシルバーラペルのブラックのジャケットに、シルバーボタンのブラックシャツ。どのルックにもそれぞれ異なるシルバーが取り入れられていた。
今季のショーのテーマについて川久保はこう語った。
「私が内装デザインに多く使用するメタル素材は、表現したいことを大変よく良く助けてくれる素材です。今回、服にその強さを取り入れたいと考えました。メタルそのものを使うわけではなく、強さ、重量感、様々な光沢を表現できる素材を用いこのテーマをまとめました。メタルの強さ、どんな圧力にも負けない強さに、今直面する難題を乗り越え、希望を生む強さを重ねたコレクションになれば良いと思います」
どんな重圧にも負けない、その言葉が一筋の希望をわたしたちに与えていく。Black Lives Matter、香港国家安全維持法の制定、そして新型コロナウイルス……絶望の淵で人々は希望や強さを求めていく。川久保玲の強いメッセージは、人にとって今何が大切か、未来への羅針盤として歩むべき方位を指している。