「お久しぶりです」落ち着いた深いブルーのニットでスタジオに現れた二宮和也は、写真家浅田政志の姿を目にするなり、相好を崩してそう声をかけた。若干緊張の面持ちで撮影のセッティングを続けていた浅田も、そんな二宮の飾り気のない笑顔に応え、久々の再会を喜ぶ。「お元気でした? 最近はどうですか?」そう二宮は気さくに浅田に話しかける。撮影前のどこか張り詰めていた空気が、あっという間に和らいでいった。
今回の撮影において浅田は、二宮、妻夫木の二人の俳優にまた新たな「役柄」を与えていった。つまり、それぞれのポートレイトを撮影するのはもちろん浅田政志本人だが、その場の設定としては「二宮和也がカメラを構えて妻夫木聡を撮影する」というもの。被写体がカメラの前で役柄を演じるという意味では、浅田の代表作『浅田家』にも通ずるアプローチである。
撮影に入るにあたり、浅田は具体的なシチュエーションを二宮に次々と伝えていく。
「二宮さんが妻夫木さんのポートレイトを撮る、という設定なので、僕のことを妻夫木さんだと思ってカメラを構えていただけますか」
「『もうちょっとそっちに立ってみて』とか『そうそうその笑顔!』みたいに妻夫木さんに指示を出すようなイメージで」
「次はセルフタイマーをセットしてこちらに駆け出してくる、というシーンです」
そうした浅田の指示のひとつひとつに対し、二宮はこともなげに「わかりました」「こんな感じですか?」と柔らかな笑顔で応えていく—— 。
その数時間後に行われた妻夫木聡の撮影でも、浅田は同様に妻夫木にシチュエーションを説明していった。
「僕じゃなくて、二宮さんに写真を撮られているという設定でお願いします」
「『えー、そんな顔するの?』『まいったなあ』みたいにちょっと照れくさい感じで」
妻夫木もまた浅田の意図を的確に捉え、普段のポートレイト撮影ではあまり見せないような絶妙なニュアンスの表情を次々と作っていく。
「ピースしてみましょう!」
「ピース? しょうがないな……」
苦笑いしつつも浅田のリクエストに応える妻夫木。その様子は、写真集『浅田家』での浅田と兄・幸宏とのやり取りをどこか感じさせ、また同時に映画『浅田家!』で兄弟を演じた二宮と妻夫木の二人の姿も重なってくるという、とても不思議な感覚を呼び起こすものだった。
撮影時、二宮、妻夫木二人の目の前でカメラを構えていたのは、紛れもなく写真家浅田政志だった。にもかかわらず二人の表情には、その場にはいなかった互いの姿がはっきりと感じられる。それはまさに「役者」の力であり、また浅田政志という写真家の力でもある。そしてその裏には、浅田の「写真を撮るならこんな風に楽しく撮ろうよ」というメッセージもまた込められているように思う。そんなことを想像しながら、ぜひ本特集[浅田政志と家族写真]を楽しんでほしい。
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