Foxfire True to nature Vol.10 佐藤岳彦

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、
自然に対して真摯であること。
表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。
傍らの自然から熱帯のジャングルまで
生命の織りなす世界を撮る佐藤岳彦に話を訊いた。

佐藤岳彦 1983年宮城県生まれ。地球を旅し生命を見つめている。写真集に『密怪生命』、『生命の森 明治神宮』、『変形菌』がある。日本写真協会新人賞、Horizonte International Photo Award(ドイツ)受賞。
構成=Coyote編集部

僕が撮る写真には、草木の陰に潜む蛇や蛙のような小さな生き物、虫やキノコや変形菌などを捉えたものが多くあります。森の中には哺乳類や鳥のような、多くの人が親しみを抱きやすい生き物がいる一方で、足元には怪しい輝きを放つ生き物たちがひっそりと息づき、生物と無生物、生と死が一緒くたに存在する世界が広がっています。そういうものに出会うために、“蛇の視線”になって地面を這い回るように撮影を続けてきました。

自然写真を撮っていますが、場所を限定することはありません。僕が撮る写真はアマゾンも東南アジアも東京も大差はないと考えています。もちろんそれぞれ異なる生態系を持った環境ですが、“生命”の本質的な部分を捉えようとすれば、どこにいても同じなのです。様々な場所で生命を見つめれば見つめるほど、変わらぬ芯の部分が見えてくるように思います。

分け隔てすることなく多様な被写体と向き合い、こちらが把握しきれないカオスなものが自然であり生命の織りなす世界だと思っています。大型哺乳類から小さな変形菌まで様々なものが同格に存在し、その流れの中には人も入ってきます。すべてが関係しあって世界が成り立っている。写真を撮り始めた頃はほとんど人を撮っていなかったのですが、旅をしながら撮影を重ねていくうちに、写真に人が入らないことのほうがむしろ不自然に思えてきました。もちろん撮る側の僕もその一部です。

Foxfire True to nature  Vol.10 佐藤岳彦

Photographs by Sato Takehiko

小さい頃から多くの時間を野山で過ごすなかで、蛇に咬まれたり熊に遭遇することで痛みや恐怖、時には死を感じたり、魚を捕まえて食べたりすることで、生き物としての感覚が自分の中に蓄積されてきたように感じています。自然と深く関わっていくためにはそんな感覚もとても大事。僕はよく撮影の「撮る」、狩りの「獲る」、食べるの「摂る」、三つの意味で“とる”という言葉を使っています。子どもの頃から、釣りをしたり昆虫採集を通して“好きなのに命を奪っている”自分の行動に葛藤がありました。自分に「なぜ?」を突き付けてもなかなか答えが出せない。その矛盾が今の僕の写真につながっていると感じています。自然はきれいで心地よくて人を癒してくれる側面がある一方で、どこか得体が知れなくて謎めいていて恐ろしいと思える。自分自身の不安定さと把握しきれない自然に対するわからなさが交錯していく感覚を覚えるんです。

Foxfire True to nature  Vol.10 佐藤岳彦

Photographs by Sato Takehiko

自然写真はもっと個人的なものでもいいのかもしれません。僕が影響を受けてきた先人たちの撮る自然写真というのは、自然の摂理といったものを壮大なスケールや時間軸で描こうとするものが多かった。でもそうやって突き詰めていく自然写真だけではなく、個人的な体験をベースに、もっと自分の内に入ってくる感覚を自由に織り込んでいってもいいと思うようになりました。自分と自然、自分の内と外を見つめながら自然と向き合うことで、より切実な何かが見えてくるような気がしています。

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