3月8日、COMME des GARÇONS 2022年の秋冬コレクションが発表された。ショーの開始と同時に、闇の中光が交差した瞬間一筋の道が浮かび上がる。力強いフルートの音色が会場に響く中、ゆっくりとモデルが登場した。
ファーストルックはウエストが絞られたAラインのコートドレス。腰下から膝にかけて大胆に横でカットされ、その中からグレーのフェルト生地が下から突き破ったかのように盛り上がっている。ヘッドピースは黒を基調にオレンジ、緑、赤とカラフルなクロシェハット。ゲイリーカードによるものだ。
ボア素材に見えるジャケットのサイドにはスリットが入っていて、スカートの裾や首元からは、細かく重なった黄色、黄緑、青、ピンクとビビットカラーのチュールが、溢れんばかりに覗いている。少し苦しげにも見えるさまは、萼から飛び出す蕾を彷彿とさせる。
太さの違う2種類のゼブラ模様を組み合わせたドレスジャケットは、紙で切って貼ったような工作的なルック。切りっぱなしの分厚いフェルト生地の間からは灰色の縫代が見える。そのフォルムは、まるで枝が節やコブを作りながら、生き生きと成長する一本の木だ。
モノクロームの異なるペイズリー模様が、パッチワークのように継ぎ合わされたルックは、丈の短いジャケットと、ボディラインに沿ったコルセットコートが合体したように見える。下に着ている黒いボディスーツにペイズリー模様のファブリックが被さるさまは、薔薇のしなやかな枝が伸び、蔓が樹木に絡みついているようだ。腰部をバッスルで膨らませているのも印象的で、横から見るクラシカルなS字ラインが艶やかである。
一見バブルラップのようにも見える、キルティングが施されたポコポコとしたテクスチャーの生地は、黒のレースで覆われていて、大地一面に広がる花畑のよう。花の萼を表現したものか、ジャケットのサイドシームは縫われておらず、スカートの満開の薔薇のようなフォルムと合わさり、一輪の花に見えてくる。
ゼブラ模様、モノクロの細かいチュール、シャーリング加工をされたファブリックにレースのキルティング、異なる素材が何重にも重なり、大輪のように膨らんだドレス。新しい時を告げふわりふわりと風に揺られるように花びらが踊る。
光沢鮮やかな質感のドレスは、前と後ろの身頃にざっくりと切り込みが入っているのが印象的だ。何層にもなっている布は、重なり合う花びらを思わせる。袖部分は、花開く前の蕾のようなフォルムが作られ、咲き誇る喜びが感じられる。
コルセットを締めたようにウエストが強調されたコート。袖はとても長く、膝下までまっすぐ伸びている。腰部分はバッスルで膨らんでいて、女性的なシルエットである。どこか懐かしいクラシカルなスタイルとそれを同時に壊していく。その相反、川久保の今の世界への視線と重なる。
発表されたのは全部で16のルック。
川久保玲はCOMME des GARÇONS AW 2022のテーマを「BLACK ROSE」と名付ける。
—— 「黒い薔薇」には多くの意味が込められてきました。
私にとっての黒い薔薇のダークな美しさは、勇気、抵抗、そして自由を意味します。この思いを表現するために、私はアイルランドに伝わる美しい抵抗の歌で、「可憐な黒いバラ」を意味する『ロイシン・ダブ』という曲を選びました。北アイルランドのフルート奏者で、同国随一のスロー・エアー・フルートの名手、キーレン・カーレンによる演奏です。——
今は冬の時代、少しずつ光が射し、命が芽吹く、忘れてはいけない物語を見た。川久保の代名詞とも言える、黒、そして薔薇の世界。本質を見据えて新しく世に問う姿勢。闇には冷たさだけではなく包み込み優しさがある。花には喜びだけではなく強さがあった。人はこのしなやかな黒い薔薇にいくつもの意味を託してきた。美しく、自由を求め立ち向かう人々へ、川久保玲の黒の世界は、反抗への勇気を促すものだと思った。