FROM EDITORS「ミラノの喧騒」

小誌連載の森山大道「THE TOKYO TOILET」(以下TTT)が、ミラノサローネの一環としてデザインウィークに参加した。ミラノサローネは毎年4月に開催される国際家具見本市、今年はコロナの影響で開催が6月に延期されたが、イタリアではアフターコロナの象徴として観光客や関係者で大いに賑わいを見せていた。THE TOKYO TOILETとは著名デザイナーやクリエイターが参加し、安心、安全で清潔な公共トイレを渋谷区17カ所に新たに生まれ変わらせるプロジェクトだ。森山大道は小誌連載を通してその意匠、変容の記録者として参加している。

TTTは、トイレこそ日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴であると捉えている。多くの公共トイレが暗い、汚い、怖いといった理由から利用者が限られている状態にあり、TTTはそうした環境の改善にも大きな役割を担っているのだ。ミラノでこのTTTを再現する。果たして可能だろうか。選ばれし公共トイレは1カ所、ミラノの中心地DUOMOのすぐ近くの地下鉄の公共トイレだ。トイレの中に森山大道の写真をインスタレーションとして展開。公共トイレがデザインのギャラリーとして生まれ変わり、あらためてトイレの価値とは何かを問いかける。

撮影当初、森山大道はこう語っていた。

「僕自身、公共のトイレを使う。用を足すという生理的な現象の処理の場所だったトイレは、いわば都会に“潜むもの”としてあった。THE TOKYO TOILETはトイレの存在そのものの在り方を変えた。何よりも印象的なのは、このプロジェクトによるトイレが一種の憩いの場所として日が当たっていること。街の片隅にひっそりと潜む場所であったトイレが、明るさを持って場所の中心になっている。日常の中の一瞬の安堵の場所になったということが、僕は何よりも画期的なことだと思っている」

デザイン、制作は東京・原宿等で活動する“SKWAT”のチームが担当し、デザイナー町口覚の手によるトイレットペーパーも初披露。東京の安全で清潔なウォシュレットモデルを初体験したミラノ市民たちの驚きととまどい、賞賛の声は、そのままミラノのインフラに長期的な影響を与えるだろう。トイレこそ日本の誇るデザインプロジェクトだと世界を旅して思う。TTTがミラノに続きロンドン、パリ、ベルリンへと繋がっていくことを願っている。

スイッチ編集長 新井敏記