海と山と人を繋ぐ道 SEA TO SUMMITレポート

海・里・山の繋がりに思いを巡らせながら自然を体感できるイベント「SEA TO SUMMIT」が3年ぶりに帰ってきた。今年は北海道から四国まで全国12カ所で開催予定となっている。初夏の道東で行われた、オホーツク大会にCoyote編集部も参加してきた。

写真と文=Coyote編集部

北海道を旅行したことがある人ならきっと、信号のまったくないパノラマの絶景の道を自転車で走ってみたいと思ったことが一度はあるのではないだろうか。そんな夢を叶えてくれたのが、全国の自治体とモンベルが開催する環境スポーツイベント「SEA TO SUMMIT」だ。網走市と小清水町を舞台にしたオホーツク大会は今回で2回目の開催となり、イベント自体がコロナ禍を挟んでの3年ぶりの開催だった。雄大な北海道の自然を感じながら、網走湖を起点に湖・里・山に分かれたステージをカヤックと自転車を駆使して進み、最後は標高1000mの藻琴山の山頂を目指して自分の足で登る、総距離48kmに及ぶ行程だ。

イベントが開催されたのは6月19日。北国の短い夏の日差しを一身に受けるかのように、道東では草木が青々と茂り、見渡す限り緑に染まった風景が広がっていた。参加者は総勢120名を数え、北海道のみならず東京をはじめ本州からも集まっていた。朝6時過ぎ、参加者たちは出発の準備を終えると今か今かとその瞬間を待ち侘びていた。やがて開会式が始まると、モンベルの辰野会長の挨拶にはじまり、今大会ゲスト参加の長野五輪スピードスケート銅メダリストの岡崎朋美さんと、北京五輪スピードスケート日本代表の村上右磨さんという北海道出身アスリートの登場に会場は大いに沸いた。

7時ちょうどに大会はスタートした。色とりどりのカヤックが順々に湖に浮かべられると、網走湖と海を結ぶ穏やかな川を流れに沿って進み、7.5km下流にあるゴールを目指す。スピードにあまり差が出ないカヤックの上は、参加者同士が交流するには最適だ。なかなかまっすぐに進まないカヤック初心者に、ベテランの参加者がパドリングのコツを教えてあげる場面も見かけた。順位を競ったりせず、参加者同士で交流しながらアウトドアスポーツを楽しむ、これがSEA TO SUMMITの醍醐味なのだ。中には親子でチームを組んで参加している方も。一人堂々とパドリングする小学生くらいの娘に「カヤックに一人で乗れる子なんてクラスにいないんじゃないの?」と、どこか誇らしげに話しかける父親の姿が印象的だった。

スタートから2時間半が経過し、ほぼ全員がカヤックのステージを終えると、今度は網走駅で貸切の特別列車に全員で乗り込み、20分ほどかけて次の自転車ステージの出発地点である浜小清水駅まで移動する。途中で列車移動を挟むのは本大会だけの特別な催しだ。釧網本線を走る列車からはオホーツク海が見渡せ、車掌が窓の外の景色についてアナウンスで解説してくれる。車掌が話す冬の流氷が押し寄せる海の姿を思い浮かべて、旅行気分で車窓からの景色を眺める。駅弁を食べて英気を養ったり写真を撮り合ったり、参加者は思い思いの時間を過ごしていた。

浜小清水駅に着くと、駅の隣にあるアウトドアの拠点、小清水ツーリストセンターで自転車に乗り換える。本大会のメインと言ってもいい自転車ステージは、距離にして38.5km、高低差700mの舗装された道を走る。遥か遠くに藻琴山の姿を確認し、広大な畑に挟まれた一本道を疾走する。夢に見た瞬間だった。しかし風は向かい風。10時をまわって気温の上昇と、前日降った雨のせいもあり、むせるような草いきれに全身が包まれる。まるで遡上する鮭のような気分だ。時折風に乗って、遠くの牧場から牧草と堆肥の匂いが届くと、これぞ北海道の香りだなと笑いがこみ上げてくる。

傾斜の緩やかな町外れの道では、沿道から「がんばれー」と子どもからお年寄りまで笑顔で声援を送ってくれる。急勾配に差し掛かり、前を走る参加者に追いつくと「速いですね」「がんばりましょう!」とお互いに声を掛け合う。みんなで励まし合いながら、一緒にゴールを目指すこの連帯感が何よりも心地良い。しかし、ゴール目前のつづら折りの坂道ではさすがに耐えきれずに自転車を押して歩くことに。偶然車で巡回していた辰野会長にそんな情けない姿を見られてしまうも、「おい、頑張らんか!」と喝を入れてもらったおかげで、2時間半近くペダルを漕いでどうにか自転車ステージを終えられた。

最後に待ち受ける山のステージは、山頂まで2kmというキツ過ぎずラク過ぎずのちょうどいい塩梅。まるで稜線を歩くように視界の開けた細い道を、声を掛け合って譲り合いながら進んでいく。すれ違う参加者からの「あとちょっとですよ」という声に励まされ、30分ほどで山頂に設けられたフィニッシュのゲートをくぐることができた。午後2時をまわり、上昇した雲がすっかり空を覆ってしまっていたが、雲間から漏れた光が眼下に広がる屈斜路湖に差し込んでいる様は神秘的だった。

大会を終えた今、北海道の雄大な景色が次々に思い起こされるが、それ以上に印象に残っているのは参加者やスタッフの方たちとステージ上で触れ合った時間だった。感染症対策の名の下に、 昨今のアウトドアでは“ソロ”が推奨されてきた。確かに一人で自然と対話する楽しさがある一方で、アウトドアスポーツが教えてくれるのは対自然のことだけではないのだと、SEA TO SUMMITは気づかせてくれた。

SEA TO SUMMIT2022 大会スケジュール

イベント SEA TO SUMMIT2022 大会スケジュール
8/20-8/21 大雪 旭岳SEA TO SUMMIT(北海道)10回記念
9/10-9/11 鳥海山SEA TO SUMMIT(山形県・秋田県)10回記念
9/23-9/24 びわ湖 東近江SEA TO SUMMIT(滋賀県)
10/8-10/9 宮城 加美町SEA TO SUMMIT(宮城県)
10/15-10/16 千曲川・高社山SEA TO SUMMIT(長野県)
11/12-11/13 三重 紀北SEA TO SUMMIT(三重県)

SEA TO SUMMITについて、詳しくは「SEA TO SUMMITとは?」をご覧ください。