グラフィックや映像、立体、インスタレーションなど様々な表現方法による作品制作を行う傍ら、ファッションブランドへのグラフィック提供や店舗空間デザイン等も手掛けるYOSHIROTTEN。そんな彼の「日常」はどうデザインされているのか。そして居住空間にとって最も大切なものとは
TEXT: SUGAWARA GO
INTERVIEW YOSHIROTTEN
自分らしい時間と空間を
「この部屋では仕事の作業をすることはほとんどないのですが、アイデアを考えたり、頭の中を整理したりというのは逆に仕事場ではあまりしなくて。だからこそ自分の家は心地良い場所、自分らしくいられる場所であることが僕にとってはとても大切なんです」
グラフィックアーティスト/アートディレクターとして多岐に渡る活動を続けるYOSHIROTTEN。渋谷の高台に建つマンションの最上階に居を構えたのは今から4年前のこと。リビングルームの大きな窓からは東京の空が一面に広がり、解放感に溢れている。
「間取りについては広めのリビングルームと寝室があればそれで充分だと考えていたので、その条件に合うリノベーションできる部屋を探していました。それで、内見に来たのが12月で、夕陽が一番綺麗に見えるタイミングだったんです。最終的にはそれが一番の決め手でした。
そこから自分の好きなもの—— レコードや本、観葉植物、昔から集めている鉱石といったものを置くにあたってどんな家具が必要なのかをイメージしていきました。元々あまり高価な家具や有名な家具が自分の生活に必要だとは感じていなくて、既製品ではなく自分に合ったもの、そしてこの部屋に合ったものを置きたいと思い、キャビネットやシェルフ、テーブルなどを普段共に作業をしている方と一緒につくっていきました」
一見何気なく見えるそれらの家具だが、そこには彼のアイデアや家具の在り方に対する思いがふんだんに詰め込まれている。たとえばキッチン前に置かれたダイニングテーブルは天板が表と裏で異なる仕上げになっており、気分に合わせて切り替えて楽しんでいるという。また、必要な際はその天板をリビングのオブジェの上に移動し、ローテーブルとしても活用できる。ターンテーブルとスピーカーが埋め込まれたオリジナルのキャビネットは、アナログレコードの収納棚も兼ねたものだ。一方、さりげなく置かれた自身のグラフィック作品や、空間デザインの仕事で制作したものをそのまま持ち込んだという剥き出しの蛍光管など、彼ならではの個性を感じさせるアイテムも。
「店舗やイベントの空間デザインでは比較的エッジの効いたインパクトのある世界観を求められることが多いのですが、それは部屋には不要だろう、と。かといってただシンプルであればいいというわけでもなくて、心地良さの中にちょっとだけ自分のイメージを拡げてくれるようなものたちも必要で。なんというか、“空気をつくる”ということを部屋や家のデザインでは大事にしているのかもしれません。時間帯や季節によって空の色や入ってくる風の感触も全然違うし、植物の表情も少しずつ変化していく。そうした時間の経過を楽しみながら、いかに自分がリラックスできる空間をつくっていくこと、そしてそれをキープしていくことが、居住空間においては重要だと考えています」
日々自分が過ごす空間だからこそ、快適な状態のまま保っておきたい。そんな思いから、掃除や片付けも常に心掛けているという。
「朝起きたらまずお風呂に入り、それからざっと掃除機をかける。お茶を飲みながらスマホを見たりして少しゆっくりして、それから自分のスタジオに向かう。それが毎朝の日課です。スタジオもそうなんですけれど、制作に入るにあたって周りにものが溢れていたり、余計なものが目に入ってくると、集中できないんです。だからできる限りフラットな状態に戻すことを心掛けていて。僕にとって掃除機をかけている時間は“無”なんです。シャワーを浴びていたり、ソファーで音楽を聴いていたりする時もそう。それも僕にとっては大事な時間なのかもしれません」
BALMUDA The Cleaner Liteは、そんな家での居心地の良さを大切にする人のためにつくられた、掃除に対する感覚を新たにしてくれるクリーナーだ。
「実際に使ってみてまず驚いたのは、その軽さと動きのスムーズさでした。手で持った時は割と重く感じたけれど、電源を入れて使い始めるとびっくりするほど感触が軽くなり、かけ心地が普通の掃除機とは全然違って」
内蔵するふたつのブラシをそれぞれ内側に回転させることで床との摩擦を低減し、クリーナー自体が浮いているかのような感覚をもたらす“ホバーテクノロジー”は、本機の大きな特徴のひとつだ。
「ホバーテクノロジーというと、なんだか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』感がありますね。ハイテクノロジーを前面に打ち出そうとして、それを主張したデザインを採用した製品も中にはありますけど、人が毎日使うものであれば住環境に馴染んだものであってほしい。ハイテクであることをむしろ感じさせないようなシンプルなものにしていくのがデザインの本来あるべき方向性だと僕は思います。そしてそれが人の行為や行動をより快適に心地良くしていくものであってほしい。そうした意味では、このバルミューダの掃除機は見た目でことさら存在感を主張することなく、しかも掃除をすることが楽しい、思わず掃除をしたくなるという、とてもバランスの取れたプロダクトデザインだと思います。こうしたものづくりの根底にある思いは僕自身共通するところがあるように感じました。生活を豊かにするデザインというものについては、今後も向き合っていきたいと思っています」
YOSHIROTTEN
1983年生まれ。東京を拠点に活動するグラフィックアーティスト/アートディレクター。デザインスタジオ『YAR』主宰。ロンドン、ベルリンでの個展を経て、2018年にTOLOT heuristic SHINONOMEにて大規模個展『FUTURE NATURE』開催