コロナ禍で止まっていた時が動き出し、再び自由な旅と日常が戻りつつある今だからこそ私たち一人一人が心がけたいことがある。何十年後も、自然豊かなハワイと出会うために。
ハワイでは古くから風、波、岩や動植物などの森羅万象に“マナ”と呼ばれる特別なエネルギーが流れていると信じられてきた。日本の八百万の神と同様に自然の中に神や精霊を見出してきたハワイの美しい自然と伝統文化は、多くの人を魅了し続けている。
この数十年で人々は気軽に世界各地を行き来できるようになり、ハワイも「南の島の楽園」というイメージを大きく謳うことで訪問者数を増やし、観光収入によって島は豊かになった。しかしその一方で失われたものも多い。今では人口140万人足らずのハワイに、毎年1000万人もの観光客が訪れる。土地が受け入れられる人数のキャパシティを超えることでホットスポットと呼ばれる局所的な混雑地域が生まれ、住民の生活や環境への負荷といった問題に直面していた。コロナ禍で観光客が激減したこの3年間、ハワイでは海水透明度の改善やサンゴの再生が観測され、観光客がもたらす環境負荷の大きさがあらためて証明された。
旅がその土地の魅力を奪うようであってはいけない。しかし、その土地の文化や歴史を継承していくためには観光の力も必要だ。ハワイの観光のあり方は今変わろうとしている。観光で失われてしまったものを再び取り戻すことができるのもまた観光なのだと。
ハワイは今、レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)として「マラマハワイ」をスローガンに掲げている。マラマとはハワイ語で「思いやりの心」を意味し、ハワイの伝統・文化、自然環境を守っていくことを目標に、ビーチクリーンや減ってしまったコアの木の植樹といった旅行者も楽しみにながら自然再生に貢献することができるリジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)に取り組んでいる。
地元住民が大切に守っている自然環境や文化、習慣に敬意を払い、正しい行動を取ることができる旅行者のことをハワイでは「ポノトラベラー」と呼ぶ。ポノトラベラーになるために大切なのは「アロハ」の心かもしれない。愛に紐づく多くの意味を持つアロハだが、その真意として「語られざるものを知り、見えざるものを見、不可知なものを知ること」だと心に刻みたい。 世界は海で繋がっている。はるか昔、波や星を手がかりにカヌーで海を旅してハワイにたどり着いた先住ハワイアンたちのように、自然に対する私たちの姿勢が今こそ試されているのだから。
more info ☞ハワイ州レスポンシブル・ツーリズム情報サイト
本稿を収録した「Coyote No.78 特集 ジェリー・ロペス ふたつの道」はこちら。