約6600年から1億5000年前、白亜紀と呼ばれる古代の地球は、活発な火山活動によってCO2の濃度も気温も高く、南極は亜熱帯雨林に覆われていたという。その頃から南極には1年のうち4カ月は日が沈むことはない白夜という時期があり、その反対に4カ月は日が昇ることはない極夜の時期があった。木は極夜の時期、成長の源である光合成を行うことはできない、でもこの南極で朽ちることはなく森を形成していったのはなぜか。その疑問を解くヒントは落葉にある。木には、一年中葉を茂らせる常緑樹と、気温が下がると葉が枯れる落葉樹がある。常緑樹の中には紅葉し落葉する木もある。
ではなぜ木は葉を落とすのか。
葉は、地中の根から吸い上げた水と空気中の二酸化炭素を利用して、光合成を行い成長する。気温が下がると、水を吸い上げる力が弱くなる。葉をつけていると、葉まで水分を補充しようとして水分不足になる。木は葉を落とすことによって自らの活動をおさえることを覚えた。いわば自分で休眠状態にするのだ。一時的に成長を止めることで水不足や光合成のできない時期を過ごす。休眠こそ、極夜で、木が成長し森を形成していくすべだったのだ。落葉こそ自然を理解する鍵なのだ。
常緑広葉樹の代表格がクスノキだ。両手を広げるような枝ぶりは勇壮で堅牢さを誇る。樹幹の形が私は好きだ。クスノキの大木が見られる神社は、西日本を中心に南西地域に多い。春、クスノキは枝先に伸び始めた黄緑色の新葉と、光沢のある紅葉した葉、まだ紅葉していない濃い緑の葉が織り成して、豊かで美しい色合いを見せてくれる。クスノキは材から樟脳(しょうのう)が採れる香り高い木として知られ、仏像にも使われた材なのだ。クスノキの語源は、寿命が長く神秘的である「奇(くす)しい木」からその名がついたとも言われている。だからというわけではないが、旅先の神社にクスノキを見つけると、深く頭をさげ、樹幹に触れる。別に信心はないが、心が穏やかになるのだ。
神戸の六甲の八幡神社には、かつて立派なクスノキがあった。しかし数年前にこの大木は伐られてしまった。その理由を地元の人に聞くと、境内に広げた駐車場の借主から、落ち葉で車が汚れるというクレームが入って困ったというのだ。枯れたといっても葉にはわずかな養分が残っていたのかもしれない。車のボンネットに脂汚れがつくのだと怒る、後から入ってきた人間の身勝手さにあきれる。神の木を伐った禍は絶対に起こるだろうと内心ひやひやしている。近くに大好きな店もある。六甲に行く度に八幡神社に立ち寄り願掛けを行っている。神の時間は10年20年の単位ではないらしく、まだこの神社は健在で、厄除けなど受け付けていた。駐車場のスペースはより広げられて高級外車が数多く停まっていた。駐車場代で立派にやっていけるのかと悔しさがつのった。本当にバチ当たりなんだから……。
スイッチ編集長 新井敏記