自然に挑むのではなく、自然と共に生き、自然に対して真摯であること。表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。生きることと暮らすことを撮影テーマに掲げる佐藤大史が出合った、極夜のアラスカの姿とは。

Photograph by Ishikawa Takahiro
極夜のアラスカをタイムラプスで撮影するプロジェクトチームを立ち上げ、昨年12月に実行してきました。アラスカにはかれこれ20回は通っていますが、極夜のアラスカ北極圏は僕にとっても未知の世界。その体験と全貌を伝えるには、1枚の写真や文章では見る側の想像で補ってもらうしかないので、困難な撮影に挑むことに。
タイムラプスとは動画撮影とは異なり、一定の時間間隔で撮影した画像を繋げていく技術で、今回は48時間という長尺での極夜の撮影を試みました。タイムラプスは写真表現なのかと言われることもあるのですが、時間を切り取ったものが写真なら、ほんの一瞬だろうが30秒かけて撮ったものだろうが、それもワンシーンであって、写真ですよね。そう考えるとタイムラプスも僕にとっては写真と変わらない。むしろ撮影はより困難で、マイナス30度を下回る寒さや絶えず強風が吹く厳しい条件下によってケーブルの断線やバッテリートラブルに見舞われながらも、これまで知らなかったアラスカの一面を見ることができました。
極夜の色合いと、雪と氷の大地が成す陰影や模様は、夏や秋のアラスカとはまったく異なり、まるで別の星に来たかのような錯覚に陥りました。極夜といっても1日4時間程度は南の空がほんのり明るくなるんです。カメラを通してその変化を見つめていると、光が当たらなくなった場所からみるみる暗くなっていき、太陽の光が地球に届く範囲というのが鮮明にわかる。こっちはずっと真っ暗なのに、上空を飛ぶ飛行機は不思議とキラキラと光って見えて、地平線の先のあの辺りに今は太陽があるから、上空が光っているんだとわかるんです。

理論的には白夜や極夜も地球の傾きと回転によるもので、地球が回っていれば自然と光が当たり続ける場所と当たらない場所が出てくるだけのこと。日本でも夏至や冬至には日照時間の変化がわかりますよね。でも実際に太陽が昇らない生活を味わってみると、こんなにも大変なのかと思い知らされました。真っ暗になる前に何をしておくべきか、いつもより限られた時間の中であらゆることを凝縮してやらなければならない。この地に暮らす人たちにとってはこれが日常だと考えると、生きる力の差を感じずにはいられませんでした。
僕はアラスカや西表島といった、ここだと決めた場所に長年通い詰めながら“生きることと暮らすこと”をテーマに撮影しているのですが、アラスカはやっぱり“生きる”が暮らしの土台にある場所だと思います。まるで命がむき出しになっているような感覚になるんです。僕らは社会の中では地位や資産といった鎧をいくつも纏っているけど、ここでは一切関係ないのだと。
本当に大切な知恵とは、サバイブする経験を積み重ねていくことで培われる。だから僕も、一頭の野生動物のようにアラスカの大地を彷徨いたい。そんなスタンスは、スピード感が求められる今の時代には合っていないかもしれませんが、時間をかけて体験を積み重ねることではじめて、その土地に属すことができるのだと思います。

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本稿を収録した「Coyote No.85 特集 Way to Patagonia」はこちら。