HERBIE YAMAGUCHI, 1977 IN LONDON by Dr.Martens
1970年代中頃、イギリスのパンクロックスターの間で人気となったドクターマーチンのブーツ。パンクファンの間でも、定番のファッションアイテムとして長年に亘って愛されてきた。
そんなパンクミュージックの歴史と切り離すことのできないドクターマーチンが、ついにロンドンパンク・ムーブメントの象徴であるセックス・ピストルズとのコラボレーションを発表。
当時のパンクムーブメントをロンドンで直に感じていた写真家のハービー・山口が、ドクターマーチンのアイテムとパンクの真髄に思いを馳せる
PHOTOGRAPHY: KATO JUNPEI
TEXT: SUGAWARA GO
INTERVIEW それは時代を超えてゆく
「1977、78年当時のロンドンのあの熱気が、ここには込められているような気がします」
ステージで両腕を挙げるジョニー・ロットンの姿がプリントされたDr.Martensの8ホールブーツを手に、写真家ハービー・山口は感慨深げにそう呟いた。
「あの時代を知らない若者たちにとっては新鮮に映るかもしれないけれど、私からすると、こうやって当時のパッションが現代に蘇るのを見るのは懐かしさと同時に嬉しくもあり、また同じ時代を生きたという誇らしさもあります」
60年代後半に誕生したニューヨーク・パンクから影響を受け、ロンドンでセックス・ピストルズが結成されたのが75年。翌年デビューシングル「アナーキー・イン・ザ・U.K.」がリリースされると、ザ・クラッシュ、ダムドといったバンドがそれに続き、ロンドンを中心とした一大パンクムーブメントが巻き起こっていく。そして同じ時、若き日本人カメラマン、ハービー・山口はまさにそのロンドンの音楽シーンの渦中で写真を撮り続けていた。
「当時25歳、ロンドンに来て3年目ですね。現地の若い写真家で構成されたグループに幸運にも入ることができ、テムズ川沿いに並ぶ空き倉庫のひとつを借りて共同生活を送っていました。その隣の倉庫はリハーサルスタジオとして使われていて、今思えば当時壁越しに鳴り響いていたのが、誕生したばかりのパンクミュージックだった。俺たちの写真を撮ってくれよ、と私たちのところにやってくるミュージシャンもいました」
机の上に広げられたオリジナルプリントには、ジョニー・ロットンやジョー・ストラマーをはじめとする錚々たるパンクミュージシャンたちのポートレイトが収められている。ある日偶然地下鉄で出会ったザ・クラッシュのジョー・ストラマーに撮影を請い、その時の「撮りたいものは撮れ、それがパンクだろ」というジョーの一言が、その後の彼の写真家人生の大きな指針となったというエピソードはよく知られている。
「今でもその時のことは鮮明に覚えています。彼のその言葉には、パンクの真髄が込められている。つまり、自分の人生に妥協するな、自分がやりたいことをやるんだ、自分の心に正直になるんだ、そんなメッセージです。元は当時のイギリスの階級社会に対する若者たちのアンチテーゼですが、それは時代を越えて今も多くの人の心を動かす言葉だと思います」
そしてDr.Martensのブーツを再び手に取り、こう続けた。
「当時の私と同じように、今を生きる若者たちがここに刻まれたメッセージに勇気づけられる、そんな風になったらいいなと思います」
ハービー・山口 1950年東京生まれ。73年から約10年間をロンドンで過ごし、ポートレイトを中心に撮り続ける。帰国後も多くのミュージシャンのジャケットや雑誌撮影等で活躍。著作、写真集多数
DR.MARTENS × SEX PISTOLS
ジョイ・ディヴィジョン&ニュー・オーダーをフィーチャーした2018AWコレクションに続く2019SSコレクションは、70年代ロンドンパンク・ムーブメントの象徴であるセックス・ピストルズとの満を持してのコラボレーション。シンプルかつソリッドなモノクロームに、ネオンピンク&ショッキングイエローのピストルズカラーのアクセントが映える。まさに“That’s Punk”なラインナップだ