『アルプスの少女ハイジ』、『赤毛のアン』、『火垂るの墓』—— 。数々の名作を世に送り出し、2018年4月に惜しまれつつ逝去したアニメーション監督・高畑勲。そんな高畑の業績を総覧できる初の回顧展が東京国立近代美術館で開催される。
「高畑勲展 ─ 日本のアニメーションに遺したもの Takahata Isao: A Legend in Japanese Animation」と題された本展では、戦後の日本のアニメーションの礎を築き、後世へ大きな影響を与えた、監督・高畑勲の「演出」というポイントに注目。作品の変遷、そして“絵を描かない監督”として知られた高畑による制作ノートや絵コンテなどの貴重な未公開資料も紹介しながら、その多面的な作品世界の秘密に迫る内容となっている。
展示構成
常に時代に則したテーマを探求し、それに見合う最適な表現方法を模索していた高畑。展覧会は高畑のアニメーション監督としての原点に始まり、作品に込められたまなざしの変化、そして遺作「かぐや姫の物語」(2013)での新たな表現方法への挑戦など、高畑の半生に寄り添う形の全4章で構成される。
■1章 出発点—— アニメーション映画への情熱
1959年、高畑はアニメーションの道へ進むため東映動画(現・東映アニメーション)に入社する。第1章では当時の絵コンテなどをもとに、若き日の高畑が創造したシーンを分析。その類稀なる技術やセンスを紹介するとともに、初の劇場用長編演出(監督)作品となる『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968)において試みられた集団制作の方法、複雑なテーマを作品へと落とし込むプロセスなどを通じて、同作が日本のアニメーション史における革新的作品と称される理由を明らかにする。
■2章 日常生活のよろこび—— アニメーションの新たな表現領域を開拓
『アルプスの少女ハイジ』(1974)、『母をたずねて三千里』(1976)、『赤毛のアン』(1979)など、未だ多くの人々の心を魅了するテレビの名作シリーズ。高畑は毎週一話制作しなければならないという時間制約の中でも、綿密な海外取材をベースに、登場するキャラクターたちの何気ない日常を、リアルに、そして丹念に描き出していく。第2章では1970年代の作品に見られる、豊かで活き活きとしたアニメーション表現を生み出した高畑演出の秘密を、宮崎駿、小田部羊一などのクリエイターらと交わされた絵コンテ、レイアウトなどの資料から紐解いていく。
■3章 日本文化への眼差し—— 過去と現在との対話
1980年代に入ると高畑はその眼差しを日本の文化や風土、庶民の生活などに向ける。映画『じゃりン子チエ』(1981)、『セロ弾きのゴーシュ』(1982)、そして1985年のスタジオジブリ設立後の『火垂るの墓』(1988)、『おもひでぽろぽろ』(1991)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)—— 。第3章ではその時期の作品に見られる、日本人の戦中・戦後の経験を現代と地続きのものとして語り直す創造性と、「里山」というモチーフの展開に注目する。
■4章 スケッチの躍動—— 新たなアニメーションへの挑戦
アニメーション表現への飽くなき探究心を持った高畑は、90年代以降、新たな表現方法を追い求めたきっかけのひとつでもある、平安時代の絵巻物の研究に没頭していく。第4章では、高畑が日本の視覚文化の伝統を掘り起こし、のちに『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999)や『かぐや姫の物語』(2013)へと結実する新たなアニメーション表現をはじめとした、高畑が生み出すイメージの秘密へと迫る。
幾度となく再放送が為されながらも、決して色あせることなく、いつの時代も愛され続けている高畑作品。その理由は、キャラクターたちの活き活きとした愛らしさもさることながら、日本の歴史や文化に目を向け、その時代に適した表現でそれらを伝えることに尽力した高畑の作品に、ある種の心の原風景を感じるからではないだろうか。当たり前に知っているようで、まだ出会ったことのないアニメーション監督・高畑勲の魅力。ぜひその目で確かめてほしい。
プロフィール
高畑勲(たかはた いさお)
1935年三重県生まれ。岡山県で育つ。1959年東京大学仏文科を卒業。同年東映動画(現・東映アニメーション)に入社。1968年、劇場用長編初演出(監督)となる「太陽の王子 ホルスの大冒険」を完成。1974年テレビシリーズ「アルプスの少女ハイジ」全話を演出。1976年にはテレビ「母をたずねて三千里」、1979年にはテレビ「赤毛のアン」の全話演出を手がけた。その後1981年公開の映画「じゃりン子チエ」、1982年公開の映画「セロ弾きのゴーシュ」を監督。1984年公開の宮崎駿の「風の谷のナウシカ」ではプロデューサーを務めた。1985年スタジオジブリ設立に参画。自らの脚本・監督作品として以下の映画—— 「火垂るの墓」(1988)、「おもひでぽろぽろ」(1991)、「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994)、「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999)、「かぐや姫の物語」(2013)を制作。『映画を作りながら考えたこと』(1984)、『十二世紀のアニメーション』(1999)、『アニメーション、折にふれて』(2013)など多数の著作がある。
展覧会概要
イベント | 高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの Takahata Isao: A Legend in Japanese Animation |
開催日時 | 2019年7月2日(火)-10月6日(日) |
休館日 | 月曜日、7月16日(火)、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火) *7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開館 |
開館時間 | 10:00open / 17:00close(金、土曜は21:00まで) *入館は閉館30分前まで |
会場 | 東京国立近代美術館 1階 企画展ギャラリー 〒102-8322 東京都千代田区北の丸公園3-1 |
観覧料 |
一般1,500(1,300)円、大学生1,100(900)円、高校生600(400)円 *( )内は前売りおよび20名以上の団体料金。 *前売券の販売期間は2019年4月23日(火)-7月1日(月)を予定。 *中学生以下および障害者手帳提示者とその付添者(1名)は無料。 *本展の展覧料で入館当日に限り、所蔵作品展「MOMATコレクション」(4F-2F)もご覧いただけます。 |
お問い合わせ | 03-5777-8600(ハローダイヤル) |
公式サイト | https://takahata-ten.jp |
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スタジオジブリの人びと、特に高畑勲、宮崎駿、鈴木敏夫という3人が織り成す人間ドラマは、その作品と同じくらいに面白いのではないか—— 。当時、スタジオジブリで修行中だった川上量生を責任編集に迎え、高畑勲14年ぶりの新作『かぐや姫の物語』公開、宮崎駿引退表明など、新たな物語が動き出したスタジオジブリの現在をドキュメントする(2013年11月20日発行)
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