単独インタビュー:「PARKER」ブランドヒストリアン ジェフリー・パーカー

イギリスの高級筆記具ブランド「PARKER」。2018年に創業130年を迎えたPARKERは、その歴史に対する信頼と、英国王室より「ロイヤルワラント」という最高級の品質認定を受け続けているトップクラスのクラフトマンシップで、世界中で今もなお高い支持を得ている。今回、PARKERが生んだボールペン「JOTTER」と銀座 伊東屋とのコラボレーション企画「JOTTER Factory -Final assembly line-」のオープニングイベントで来日したPARKERのブランドヒストリアンを務めるジェフリー・サッフォード・パーカーに、特別に話を伺った。

取材・撮影協力:銀座 伊東屋 HandShake Lounge

PARKER130年の歴史を背負う

「私こそがPARKERの歴史を伝えていく本なのです」

ジェフリー・サッフォード・パーカーはそう語る。創業者ジョージ・サッフォード・パーカーの曾孫であり、現在はいわばPARKERブランドの伝道師として、ブランドヒストリアンを務めているジェフリー。創業者のジョージから数えると、ジェフリーは4代目にあたる。創業から130年もの間、ブランドの物語はどのように現在のジェフリーまで受け継がれてきたのか。創業からパーカー家に代々伝わる歴史書のようなものがあるのか尋ねたところ、ジェフリーは笑いながら否定し、こう続けた。

「創業家がブランドに関わることは、ブランドの思いに一貫性をもたらしてくれるという利点があると思います。PARKERは、優れたペンを作り上げるという信念から始まりました。直接的にビジネスを目指したわけではなかったのです。創業者である曽祖父のジョージは、ただ自らの誇りをかけてペン作りに取り組んでいました。一番大事にすべきことは高品質であることだ、と。その思いが、曽祖父のジョージから祖父へ、祖父から父へ、そして私へ、ブレることなく受け継がれてきたのです」

PARKERの歴史は、1888年にジョージ・サッフォード・パーカーが自身初となるペンの特許を申請したところからスタートする。

「実は最初は他人が作ったペンを修理していたのですが、それらがいい品質のペンではないことに気がついたんです。すぐに壊れるので、曽祖父はそのたびに修理をしていて、その経験からペン作りが始まりました」

ジョージは、1894年にインク漏れを防ぐ独自のインク供給システム「ラッキー・カーブ」を搭載した「ラッキー・カーブ・ペン」を発明。それ以降、PARKERはコンスタントに時代を象徴するペンを発明し続けている。1921年に誕生した「デュオフォールド」は、当時としては革新的なオレンジのカラーリングと25年保証という耐久性で、高級筆記具界に衝撃を与えた。1933年誕生の「バキューマティック」には、PARKERブランドの象徴となる「矢羽クリップ」を初めて採用。ジェフリーの祖父であるケネス・パーカーが、戦闘機からインスパイアした「パーカー51」を1941年に発明し、その年の「アカデミー・アワード・フォー・ベスト・デザイン」も受賞した。PARKERの高いクラフトマンシップと革新性は、その次の世代にも脈々と受け継がれてきたのだ。

先祖3代の思い出が詰まったマイジョッター

そして1954年、PARKER初となるボールペン「JOTTER」の生産が開始。発売から65年が経った今でも、トップセールスを続けるPARKERへの入門編とも呼ぶべきモデルだ。開発したのはジェフリーの父、ダニエル・パーカー。ジェフリーは「JOTTER」の魅力をこう語る。

「イギリスにはEDC(=everyday carry)という、常に持ち運びができてどこでも使えるアイテムを指す言葉があります。財布や携帯とか様々なものが当てはまりますが、JOTTERもEDCなアイテムだと思うのです。私も常にポケットにJOTTERを入れていますし、旅行に行く時も最適です」

そんな「JOTTER」と文具専門店の伊東屋とのコラボレーション企画「JOTTER Factory」が、6月より展開されている。11種類のキャップ、23種類のバレル、8種類のリフィールの中からパーツを自由にカスタマイズし、2024通りの可能性の中から自分好みのカラーバリエーションを楽しむことができる。この企画は伊東屋とのディスカッションから始まったもので、PARKERにとって初めての試みだ。

「今回の企画は私たちにとって非常に革新的なものであり、この先長い間成功を収めていくことになると思っています。なぜ今まで思いつかなかったのだろうとさえ思いました。実際のところ、私たちがペンを作る際、色を選ぶというのは非常に難しい決断なのです。それが今回の企画では、お客様自身に自分だけのパーソナルな色を選んでいただくという。こんなに楽なことはありません(笑)。周りの人からすればもしかしたら変だと思われる組み合わせでも構わないのです。選んだ人にとって思い入れがあるアイテムとなってくれたら、素晴らしいことだと思います」

 ジェフリーが、今回の企画で製作したマイジョッターを見せてくれた。オレンジのバレルは、創業者ジョージが作った「デュオフォールド」のカラーから。シルバーにゴールドのクリップがついたキャップは祖父ケネス・パーカーが作った「パーカー75」から想起したという。

「ジョッターを発明したのは、私の父であるダニエル・パーカーです。曽祖父、祖父、父の3世代分の想いをこの一本にこめました。私にとってとてもパーソナルなカラーリングとなりました。良いペンというのは、手にももちろんフィットするものだと思うし、同時に心にフィットするものだと思っています。お客様にもその感覚を大事にしてほしいです」

手で文字を書くこと

インタビューの間、ジェフリーは何度も「パーソナル」という言葉を口にした。それはPARKERというブランドを語る際のキーワードだ。

「私たちのブランド理念はパーソナルビジネスという言葉に基づきます。会社と会社のビジネスではなく、私とあなたとの間の、ごく個人的な付き合いなのです。私たちはビジネスを最優先としたブランドではなく、あくまでも人が主体です。お客様とのパーソナルな繋がりを大事にしているからこそ、私はブランドがこれまでどのような歴史を辿ってきたのかを私から直接人々に語りたいのです」

現代のデジタル社会の中、手で文字を書く機会が減っていることに対しての意見を求めた際も、ジェフリーは「パーソナル」という言葉を強調した。

「手紙とEメール。それぞれ良し悪しがありますが、デジタルの定義というのはパーソナルなものではない、ということだと思います。どのEメールも他のメールと似た見た目になってしまいます。私がみなさんに伝えたいのは、パーソナルなメッセージを伝えたいのであれば、手で書かなければいけない、ということです。自分の筆跡は、自分にしかないものですから。それはとてもパーソナルなものです」

今日も世界で伝え続ける

最後に、創業130年を超えたPARKERがこれから目指すブランドの方向性について訊いた。

「これからもブランドが輝き続けていくためには、歴史をしっかりと見つめ、そこから学んでいくことが大事だと思います。PARKERの基礎は優れた素材、クラフトマンシップ、革新性という3つの要素から成り立っています。これは失ってはいけない大事な要素です。特に革新性という部分は大事です。今回のような企画も革新性にあふれていますが、技術的な部分であったり、販売方法も進化を続けなければなりません。またそれに加え、お客様の声に常に耳を傾けることも必要です。そこには思いがけないチャンスがあるものです」

伝統、そして常に進化を求めていく姿勢こそがPARKERを象徴するものだ、と答えるジェフリー。ブランドの生き字引と言えるジェフリーは、今回で5度目の来日。世界中の人々へブランドのストーリーを伝えるため、日々世界を飛び回っている。今年で71歳になるジェフリーだが、その土地の人々の話を聞き、体験し学ぶことをとても楽しみにしているという。

「先ほどお客様へブランドのストーリーを語ることが私の仕事だと言いましたが、それは私からの一方的な語りではないのです。私が語ると、みんなも自身のPARKERとの思い出や、家族とPARKERの思い出を教えてくれたりするのです。その瞬間、私たちの関係性は会社と消費者ではなくなり、私とあなたの、とてもパーソナルな関係になるのです。この関係性こそがPARKERのビジネスにおいてとても大切なことなのです。年寄りの説教だと思われるかもしれないけど、若い人はテクノロジーにすぐ適応しますよね。それはすごく良いことだと思うけど、同時にネガティブな面もあります。それは自分を表現する機会や、相手のパーソナルな部分に接する機会を失っていることだと思うのです。……こういうのは年寄りくさいでしょうか」

最後にそう笑顔で語ってくれたジェフリー。穏やかな語り口ながらも、PARKERが大切にしてきた製品にかける想い、ブランドへの信念、積み重ねてきた歴史を語る表情は真剣そのものだった。良質な素材、クラフトマンシップ、革新性。130年もの間積み重ねてきたブランドの誇りを、彼はまるごと身にまとっている。彼が伝え続ける物語は、これからの世代に受け継がれ、PARKERの歴史は積み重なっていくのだろう。

イベント概要

「JOTTER」を好きな組み合わせにカスタムオーダーできる世界初の試み「JOTTER Factory」が銀座 伊東屋にて開設中。日本、海外初登場を含む、11種類のキャップ、23種類のバレル、8種類のリフィールによる2024通りの組み合わせから、自分だけの「JOTTER」を作ることができる。完成したペンはオリジナルピンバッジ付きの特製ギフトケースに梱包されるため、大切な人へのプレゼントにも最適だ。
□販売時期
6月21日より常設
〈月〜木〉10:00~20:00 〈日・祝〉10:00〜19:00
□常設場所
銀座 伊東屋本店 3階レジ横スペース
□価格
2,000円〜7,500円(税別)
□カスタマイズサービス
以下の3つのパーツを自由に組み合わせることができる。
1)キャップ:11種類 2)バレル:23種類 3)リフィール:8種類
※世界初登場はキャップ、バレル各1種類、日本初登場はバレル5種類、復刻版はキャップ3種類、バレル3種類となる。