HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEが発表した2024/25年の秋冬コレクションはデザイナーであるロナン・ブルレックとの協業コレクション「Immersed in the Wilds of Creativity――没入。野性溢れる創造力――」。直感を尊重し自由で大胆に描かれたロナンのドローイングをどうコレクションに落とし込んでいったのか。幾度も対話を重ねてつくりだされたというコレクションの魅力を紐解いていく
TEXT: TSUCHIDA TAKAHIRO
TRANSLATION: IKEDA SATOSHI
Photography: Olivier Baco、HAYASHI KYOTARO
INTERVIEW
ロナン・ブルレック|平面に吹き込まれた力
すでに25年前より協業の経験があったロナン・ブルレックとイッセイ ミヤケ。
一度は断ることも考えたという今回の協業は、いかにして完成形に辿り着いたのか
「ノー」から始まった共同作業
フランス・ブルターニュ地方に生まれたロナン・ブルレックは、幼い頃から絵を描くことに自分だけの世界を見出していた。そうして育まれた創造性は、彼をシーン屈指のプロダクトデザイナーへと成長させる。また近年は、描き続けるドローイングの評価も大いに高まってきた。オム プリッセ イッセイ ミヤケとのクリエイティブ・セッションで生まれた一連のアイテムは、そのドローイングに秘められた魅力を鮮烈に印象づける。
──今回のオム プリッセ イッセイ ミヤケとの協業で用いたようなドローイングを、いつ頃から描き始めたのですか?
ロナン 覚えていません(笑)。4~5歳頃、初めてフェルトペンを手にして、艶のある紙に描いた感触を私は今も覚えています。当時から、何を描くかよりも、描くという行為自体に喜びがありました。ドローイングは最も純粋で、直感的で、直接的な表現方法なのです。
──最初に協業の依頼があった時、どう答えましたか?
ロナン すぐ「ノー」と返事しました。実は約10年間にわたり、いろいろな企業から私のドローイングをファッションのコンテクストで使いたいという話があったのです。しかしそうやって出来上がるものは、次のシーズンには簡単に捨て去られてしまう印象があり、今回も同じだと思いました。でもすぐに気持ちが変わって、一時間後に再度連絡をしました。私は25年前からイッセイ ミヤケと協業していて、彼らはファッションから建築まで幅広いデザインに横断的に取り組んでいます。素材からつくることを大切にするのも一般的なファッションブランドとは違う。どこかひとつのブランドと一緒にやるなら、この機会しかないと判断しました。
──25年前の協業とは、パリのエイポックの店舗デザインのことですか?
ロナン はい。あの時も電話をもらって最初は「ノー」と答えたんです(笑)。私たちはインテリアデザイナーではないから受けられない、と。私が三宅一生さんを知ったのはさらに前で、パリ装飾美術館での彼の展覧会を十代後半に観てからずっと重要な存在でした。仕事で声がかかってからは、ディナーなど何度も交流の機会をもつことができました。
──今回のコレクションのドローイングは、新たに描かれたのですか?
ロナン デザインの仕事では、求められるもののコンテクストを理解し、リサーチを繰り返して、数年間かけてアイデアを発展させます。それに対して私のドローイングは、何も考えずにただ手を動かして直感で描くもの。何かを意図してドローイングを描きたくありません。オム プリッセのデザインチームには、私のドローイングの展覧会をヨーロッパまで観に来てもらった上で、私が今まで描いてきたドローイングからピックアップして渡し、プロジェクトが始まりました。
──あなたのドローイングは、衣服の表面を飾るだけではありませんでした。絵そのもののような服もあれば、スニーカーやバッグにも生かされています。
ロナン デザインチームからの最初の提案は、ドローイングを尊重しすぎていてあまり面白いと思えませんでした。だから、ドローイングを切り取ったり、その中に入り込んだり、独自の視点でラディカルに解釈してほしいと伝えたのです。以降は数ヶ月に一度、計4回のミーティングを経て多くのアイデアを交換し、今年1月のショーの3カ月前に東京で行なった最後の打ち合わせではすばらしいものに辿り着きました。それまでの試行錯誤が生かされたのです。
形や色を、どう見せるか
──パリでの発表の会場演出にも、ロナンさんがかかわったのですか?
ロナン 今回のセッションは、すべてのプロセスでチームと一緒にアイデアを出し合いました。私は会場候補の中でパレ・ド・トーキョーを提案し、会場のレイアウトも考えました。白い壁を背景にモデルが歩くようにしたのは、服の形を正しく見せ、ドローイングや色彩のパワーが伝わりやすくするため。写真の選定も重視しました。
──実際に完成した服を見て、自身が描くドローイングについての新しい発見はありましたか?
ロナン ドローイング自体についての見方は変わりませんが、平面だったものが実際に動く様子はとても面白いと思いました。また他者と一緒に何かをつくり出す体験そのものに、大きな驚きがありました。多くの人がかかわり、いくつものプロセスを経て、洋服が完成し、ショーとして発表されていく。一連の経験が、今までの私の仕事の中で特に重要な位置を占めるほどです。
──オム プリッセのデザインチームに対してはどんな感想をもちましたか?
ロナン パリと東京という距離がありながらまったく新しいものを生み出すのは、限られた時間の中ではとても難しいことです。しかしプロジェクトの初期から私たちは同じ方向に進むことができました。これは、どちらも仕事の中でひたすらに探究を続け、安易に終えようとしない姿勢が、そもそも同じだったからだと思います。プロジェクトの最中、何度も知的な繋がりを実感しました。
──今後もオム プリッセとのプロジェクトを続けたいと思いますか?
ロナン 私はなかなか自分の仕事に納得できないタイプですが、今回は珍しくとても満足しています。しかし次にまた何かやるとしたら、これを越えなければなりません。それは本当に難しい(笑)。大きなチャレンジになりますね。
ロナン・ブルレック
1971年、フランス・カンペール生まれ。90年代末より弟のエルワンとともにデザイナーとして活動。現在も世界的に活躍するとともに、ライフワークであるドローイングが各国の美術館やギャラリーで展示されている
Ronan Bouroullec: On Creative Session
オム プリッセ イッセイ ミヤケとロナン・ブルレックの協業を紐解く展覧会が21_21 DESIGN SIGHTギャラリー3にて10/25~11/24まで開催。協業にあたり行われた「クリエイティブ・セッション」を中心に、“ドローイング”と“服づくり”という二つの側面からコレクションについて紹介をしていく。会場ではロナンが描いた貴重なドローイングや、インタビュー映像などが公開される予定。開館時間は10:00-19:00(火曜休館)。入場料無料