建築家・隈研吾とアシックスのコラボレーションシューズ第3弾「Archisite ORU」発売直前の4月3日。早稲田大学構内の村上春樹ライブラリーでは、隈を招いたローンチイベントが開催された。イベントには、アシックスの会員サービス「One ASICS」の抽選に応募した当選者や早稲田大学の生徒が参加。開発過程のサンプル展示やトライアルなど、本作の魅力を体感できるコーナーが設けられた。
トークセッションには、実際に「Archisite ORU」を履いて登壇した隈。普段から世界中の現場に足を運ぶ彼は、開発に至るまでの経緯をこう語った。
「僕の移動に対する基本的な考えは、いろんなものを持っていかないこと。全てひとつで済ませたいから、旅行カバンもひとつしか持たない。雨のところや天気の良いところ、暑いところや寒いところもそのひとつで済ませたくて。でも靴だけはあらゆる現場に対応できるものが無かったから、そのような靴が作れないだろうかとアシックスの皆さんにお話ししました」
さらに、建築の現場から夜のパーティーなど、まったく異なるシチュエーションへもそのまま履いていけることを目指したというデザインについては、「『これはなんなんだろう?』って思われながら、全ての場所で通用する。そういうものが僕の理想なので、靴でもそれを叶えたいと思ったんです」と話した。
「Archisite ORU」は、過去のコラボモデル「METARIDE AMU」でも採用された日本の伝統的な竹細工技法である“やたら編み”構造を、高強度、軽量、耐水性などの特徴を持つ素材「ダイニーマ」を用いたアッパースキンで覆った仕様だ。
ダイニーマについては、隈もアシックスからの提案でその存在を初めて知ったという。優れた機能性に加え、見た目の繊細さに注目することで、「Archisite ORU」における最大の特徴である二層構造が実現した。
「建築では、柱と梁で作られた骨組みの外側を別のスキンで覆うカーテンウォール構造という技法があるんです。だけど建物の構造上、外につけるガラスは水が漏れないようにだとか、強い風が吹いても割れないようにだとか、カーテンウォールと言われながらカーテンのように軽くないんです。過去に手掛けた十勝の『メム メドウズ』という建築では、骨組みを全部半透明の膜で覆いました。軽量でありながら、マイナス30度の気温でも快適に過ごせる。ガチガチに固めてはいないのに、実は身体はしっかり守られている。このシューズはまさにそういう方向性なんです。建築で僕がやりたいことの未来を示している、ある種暗示的な作品だと思います」
『SWITCH』5月号(4月20日発売)では、「Archisite ORU」の撮り下ろし写真に加え、アシックスの開発・デザイン担当者へのインタビュー記事を掲載。隈からの斬新なアイデアはどのように製品に落とし込まれたのか。そして両者がシューズに宿した新たな可能性とは。