ユーロマンガ主宰・フレデリック・トゥルモンドさんにバンドデシネと漫画の違いや「海外マンガフェスタ」について聞く全4回のインタビュー!
漫画(バンドデシネ)で読む村上春樹シリーズ第2巻目となる「HARUKI MURAKAMI 9 STORIES かえるくん、東京を救う」が10月20日に刊行され、シリーズはますますの盛り上がりを見せる中、日本におけるバンドデシネ、海外の漫画はこれからどのような発展を遂げるのか。HM9S編集部はそのヒントを探るべく、バンドデシネの本場・フランスで生まれ育ち、現在日本でバンドデシネの出版やイベント活動を行う出版社「ユーロマンガ」主宰のフレデリック・トゥルモンドさんに話を聞きました。
第2回:漫画は最後のガードマン
前回はバンドデシネと漫画の主人公や読者層について学んだHM9S編集部。BDビギナーからレベルアップするべく、さらに奥深い森へ足を進めます。
——前回、『パン屋再襲撃』の印象をお尋ねした時に、文学作品がBDになる場合、多くはクラシックな画風で、これほどポップなものにはならないとおっしゃっていましたが、フランスでは小説のBD化というのは多いのでしょうか?
フレデリック たくさんありますね。出版社が小説をBDで出す理由は大きく分けて2つあります。1つは学校や図書館での需要がある。フランスではBDが書物として認識されていて、小説への入門書として使われています。
——教科書やテキストとして?
フレデリック はい。BDがあることで小説が守られるんです。
——どういうことですか?
フレデリック 日本でも同じだと思いますが、テレビやインターネット、そしてスマホの普及により、子どもに文学作品を読ませるというのは今の時代さらに難しくなっています。メディアの戦いですね。本はとても弱くなっている。なのでフランスでは親が積極的にBDを子どもに読ませます。
——僕が子どものころは漫画ばかり読んでいると親からよく叱られたものです(笑)。
フレデリック たしかに昔はそうでした。BDの中には暴力や性を描いた作品も多いですから、子どもへの悪影響を心配する親は当然いました。ところが時代が急速に変わり、今ではBDを読む子どもを見ると親は、「あら、うちの子はインテリかしら」と思うようにまでなりました。それはBDという本を通ることで他の本や原作小説に繋がるのではないか、という期待があるからです。
——なるほど。
フレデリック 「BDがあって助かります」という声は増えてきています。出版業界もBDによって読書の機会が守られる。BDで育った大人が、次の世代の子どもたちにも本に触れる機会を与え、そして他の本の購買、原作小説の購買へと繋がっていく。日本では漫画は読書における最後のガードマンという意識は全くないですよね。
——ないですね。
フレデリック でも実は繋がっています。BDは時代を繋ぎ、読書を繋ぎます。
——BDの語源がbande(帯、続く)dessinée(描かれた)で、「描かれた帯」というのも納得です。
フレデリック 日本でも同じ現象は潜在的に起こっているはず。漫画を読んだら次にライトノベルへ移る読者はいますし、ライトノベルでは物足りなくて小説を読みたいという読者はすごくいると思います。フランスではその意識が強い。
——漫画が最後のガードマン、という表現はとても素敵な言葉ですね。
フレデリック BDは最後のガードマンになりますね。もちろん日本の漫画を含めて。日本でもフランスのように「自分の子が漫画を読んでいる、もしかしてインテリかも!」っていう雰囲気になればいいですよね(笑)。
——HM9Sシリーズは、まだ村上春樹さんの小説を読んでいない方や、敷居が高いと感じている方にも届けたいと考えています。HM9Sシリーズを通して、村上さんの小説に入っていくような若い人がいたらいいな、その橋渡しの役割が果たせればいいなと。
フレデリック ほら、潜在的にはいっしょでしょ?(笑)