本誌SWITCH 2021年8月号では、最新作『竜とそばかすの姫』について主に「歌」や「音楽」の面から訊いた細田守監督インタビューを掲載したが、ここでは、その本誌には収録しきれなかった、主に「映像表現」の面についてのインタビューを、4つのトピックに分けて紹介する。
Vol. 3 なぜ舞台は高知県だったのか
――――『サマーウォーズ』の長野県上田市、『おおかみこどもの雨と雪』の富山県上市町、『バケモノの子』の東京都渋谷区、『未来のミライ』の神奈川県横浜市など、これまでの作品でも現実の土地が映画の舞台として描かれてきましたが、今作では高知県が舞台となっています。鏡川や仁淀川など実在の川も重要なモチーフとして登場しますが、そもそもなぜ舞台として高知県が選ばれたのでしょうか。
細田 高知は昔からずっと憧れの土地ではあったんです。二十歳ぐらいの時に『竜馬がゆく』(司馬遼太郎 著)を読むと、誰もがそうだと思いますけど、無性に高知県に行きたくなるんです。坂本竜馬が土佐藩を脱藩して京都伏見に行くまでの足跡を辿ってみたい、というような。ただ、愛媛や香川までは行けたとしても、地理的な要因もあってなかなか高知までは行きづらいみたいなこともあって、今まで行けていなかった。
それが今回、インターネットの世界の中心にいる歌姫が、実は“世界の果て”のような場所にいる少女だった、という対比を描きたいと思った時に、日本における“世界の果て”みたいな場所ってどこだろうと思っていろいろ見て回ったんです。その中で辿り着いたのが仁淀川でした。
仁淀川に関しては、これまで映画の音楽をお願いしてきた高木正勝さんが、仁淀川を取り上げたNHKのドキュメンタリー番組の音楽を手がけていて、『Niyodo』というサントラがあるんです。そのサントラを聴いて、いい曲を作る人だなと思って『おおかみこどもの雨と雪』から音楽をお願いするようになったという経緯もあったから、仁淀川にもずっと行ってみたいと思っていました。
で、実際に行ってみると素晴らしい場所なのはもちろんなんですが、調べてみると、「限界集落」という言葉が生まれたのが実は仁淀川流域だったということがわかってきたんです。90年代初頭に、高知大学の社会学の研究者の方がフィールドワークをして、研究の結果を発表した時に「限界集落」という言葉を初めて使ったそうです。実際に仁淀川周辺には廃校が多いんです。
――――映画本編で廃校になった小学校が登場するのには、そういう背景があるんですね。
細田 そうなんです。そもそも高知県は廃校が多くて、廃校を利用した「むろと廃校水族館」という施設が観光地として有名になったりもしています。その多くがバブル期に作られていて、定礎を見ると竣工がだいたい30年ぐらい前。つまり、第二次ベビーブーム世代のためにたくさんの小学校が作られていて、その多くが廃校になっている。だから校舎は案外新しいんです。廃校と言うと100年前の木造校舎だとかを想像してしまうけど、そうではなくて鉄筋なんです。
そういう現状がある中で、そこで今まさに成長しつつある子どもたちのことを想像した時に、ある種、追い詰められたような気持ちになることもあるんじゃないか、と思いました。これは高知に限らず、今の日本では大都市以外の場所はどこもそういう傾向があると思います。
コロナ禍によってリモート化が進み、都心を離れる人が増えたと言っても、せいぜいが首都圏近郊だと思うんです。地方の人口減少問題、少子化問題というのは全然解決していない。僕の出身の富山県もそうです。僕が育った上市町も消滅可能性都市に含まれていますし、富山市はそれを見越してコンパクトシティ化と言って、少子化、少人口社会の対策を今から図ったりもしています。
そういう地方の状況がある一方で、インターネットの世界には何十億人もの人が集まっている。それはすごく対比的だなと思うんです。でも、そういうところからこそ、別の世界で一種の才能を発揮する人が出てきてほしい、とも思うんです。高知に住むすずがベルとして<U>の世界で歌姫となっていったように、東京ではなく、そういうところにいてほしい、と。そういう思いを込めて高知県を舞台にしようと思いました。
★『竜とそばかすの姫』は現在公開中
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