世界基準の音をワイヤレスイヤフォンで──
Bowers & Wilkinsと過ごす音楽生活

Bowers & Wilkins、それは世界が認めた音

南イングランドの海沿いの街、ウェスト・サセックス州ワージングで1966年に創業したスピーカーブランド「Bowers & Wilkins(バウワース&ウィルキンズ)」。オーディオや音響機材に多少なりとも詳しい人であれば、かつての「B&W」のブランドロゴに馴染みのある人も多いだろう(現在はBowers & Wilkins表記)。ビートルズやピンク・フロイドの諸作に代表される歴史期的名盤を数々生み出したロンドンのレコーディングスタジオ「アビーロード・スタジオ」のモニタースピーカーとして1988年に導入され、その時々の最新機種に代替わりしつつ現在まで35年以上にわたり稼働を続けている。つまり世界最高峰のレコーディングスタジオの“リファレンス”として長年認められてきた、スピーカー界のトップエンドブランドがこのBowers & Wilkinsなのだ。もちろんアビーロード・スタジオだけでなく世界有数のスタジオや放送局にも同社のスピーカーは導入されており、そのクオリティは世界中のレコーディング・エンジニアやアーティストに認知されている。

一方、プロフェッショナルユースのみならず、日常の暮らしの中で音楽を楽しむ音楽好き、オーディオ好きの人々にもBowers & Wilkinsは愛されてきた。1993年に発表され、独自の音響理論に裏打ちされたオウムガイを模したような美しいフォルムでその名を馳せた最高峰モデル「Nautilus(ノーチラス)」から、ブックシェルフ型と呼ばれる手頃なサイズのエントリーモデルまで、創業以来これまで実に数多くのスピーカーを作り続けている。

そんなBowers & Wilkinsの製品作りにおけるポリシーは、創業者ジョン・バウワースの以下の言葉に集約されている。つまり「最高のスピーカーとは、最も多くのものを与えるものではなく、失うものが最も少ないものである」。彼の考える理想のスピーカーは“完璧なガラス”のようなものであり、音楽家が生み出す音のすべて――その音楽が持つ感覚的なイメージやオリジナルのニュアンスまで――何ひとつ損なうことなく聴き手の元に届けられるスピーカーである。アビーロード・スタジオがBowers & Wilkinsのスピーカーを使い続けているのも、その姿勢が同社のスピーカーづくりに徹底されているからだろう。

最高峰モデルのスピーカー「Nautilus(ノーチラス)」
創業者のジョン・バウワース
アビーロード・スタジオで活躍するBowers & Wilkinsのスピーカー
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“あるがままの音を聴く”ということ

Bowers & Wilkinsが長年培ったスピーカーの製造・開発技術を投入したブランド初のイヤフォンを発表したのは2011年。1980年代以降多くのオーディオブランドがポータブルオーディオに進出するなか、Bowers & Wilkinsは慎重だった。スピーカーで追求してきた自分たちの目指すクオリティが、その数百分の一のサイズで実現できるまで、Bowers & Wilkinsは長い時間をかけてヘッドフォン/イヤフォンの開発に取り組んできた。満を持して発表されたイヤフォン「C5」は、Bowers & Wilkinsのそれまでのスピーカーと同様の高い評価を受け、彼らの目指す“完璧なガラス”を通したかのような音をその小さなイヤフォンでも実現してみせた。

そして2024年、Bowers & Wilkins最新モデルのひとつがこの完全ワイヤレスイヤフォン「Pi6」である。多くの音楽ファン、オーディオファンに待望されたBowers & Wilkins初の完全ワイヤレスイヤフォン「Pi5」「Pi7」(2021年発売)から数えて3世代目となる新モデルで、上級機「Pi8」と同時に発表された。同社のフラッグシップヘッドフォン「Px8」を手掛けたエンジニアリングチーム、デザインチームの手によって生み出された本機は、「Bowers & Wilkins史上最も高音質で、快適で、機能が充実したイヤフォン」と謳う自信作となった。

このPi6のサウンドを言葉で表すのは難しい。というのも、Bowers & Wilkinsのそもそものポリシーが前述した「最も多くのものを与えるものではなく、失うものが最も少ないもの」であり、“イヤフォン独自の音”をそこから聴き分けようとするのは、彼らの思いに反する行為とも言えるだろう。そして実際にこのPi6で音楽を聴いて思うのは、その音楽自体が元々持っていた豊穣さや繊細さが、それまで気に留めなかったようなほんのわずかなニュアンスまで含めて感じ取れるということだ。

長年のスタジオモニターとしての世界的評価・実績からもわかるとおり、Bowers & Wilkins製品の音は、いわゆる「ロック向き」「ジャズ向き」「クラシック向き」といったものはなく、どんなジャンルであれその“原音”に忠実な再生をモットーとしている。であれば、よりその“原音”を味わうべく、近年アビーロード・スタジオで制作された(つまりBowers & Wilkinsのスピーカーを使用して制作された)作品をピックアップして聴いてみるのも一興だろう。

アビーロード・サウンドを存分に味わう

まずは、レディオヘッドのトム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッドが中心となったバンド、The Smileの2024年作『Wall of Eyes』そして『Cutouts』の2作。どちらも、かつてビートルズもレコーディングに使用した「STUDIO TWO」で同時期に制作された双子のような作品だ。楽曲の構造的にもサウンドデザイン的にもレディオヘッド時代からロックもしくはバンドミュージックの枠を超越し続けてきた彼らだが、The Smileでもそれは同様で、UKジャズシーンで活躍するドラマーのトム・スキナーによる躍動的で複雑なリズムや、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによる厚みのあるストリングスも相まって、オーディオ的にも極めて聴き応えのある楽曲が並ぶ。楽曲の細部に施された様々な仕掛けまでPi6は余すところなく聴かせてくれるため、聴くたびに新たな発見があるのが楽しい。

英国音楽シーンにおける“モッドファーザー”(モッズの父)、ポール・ウェラーの最新作『66』は、66歳、17作目のソロアルバムにして最高傑作と名高い1枚。このアルバムは主にポール自らが所有するイギリス・サリー州のブラック・バーン・スタジオで制作されているが、彼が近年活動を共にする作曲家/コンポーザーのハンナ・ピールが手掛けたストリングス等はアビーロード・スタジオにて録音された。アルバム先行シングルとなった「Rise Up Singing」は、フィラデルフィア・ソウル調の流麗なストリングスと温かみのあるバンドサウンド、そしてポールのボーカルの絶妙なバランスが心地良い。原音に余計なものを一切加えないBowers & Wilkinsのポリシーがたしかに感じ取れる音だ。

そしてもう1作は、先日15年ぶりの再結成を発表し世界中のロックファンを歓喜させたオアシスのギャラガー兄弟、そのノエル・ギャラガー率いるNOEL GALLAGHER’S HIGH FLYING BIRDSが昨年末に公開したスタジオセッション「Abbey Road Sessions」。世界最大級のレコーディングスタジオであるアビーロード・スタジオ「STUDIO ONE」で行われたセッションで、オアシスの「The Masterplan」「Going Nowhere」の2曲が録音された。オリジナルバージョンの重厚さやスケール感とはまた異なる、どこか伸び伸びと、楽しげに歌い演奏する彼らの姿が、音だけでも存分に伝わってくる。そのセッションの様子は映像作品としても公開されているが、Pi6で聴くならばまずは音源のみで味わってほしい。スタジオセッションならではの緊張感、臨場感がまるで目に見えるように伝わってくるだろう。

良い音のある暮らしの喜び

ワイヤレスイヤフォンにとって最も重要なのは “音”であることに違いないが、Pi6はそれに加えて使用時の快適さも徹底的に追求されている。そのフォルムは、性別や民族による人間の耳の形状の違いに関するBowers & Wilkinsの研究プロジェクトから着想を得たもの。耳へのフィット感や操作感もきわめて快適で、余計なことを気にすることなく音楽に集中できるのが嬉しい。デザインも控えめながら品のあるもので、淡いトーンのブルー(グレイシャー・ブルー)やグリーン(フォレスト・グリーン)といった、これまでのワイヤレスイヤフォンにはあまりなかったカラーリングも、選ぶ楽しみ、使う楽しみを与えてくれる。

最後に、ワイヤレスイヤフォンというと一般的には外で使うイメージが強いものだが、このPi6を手に入れたら、ぜひ家の中でも使ってみてほしい。仕事を終えてひと息ついた後の時間に、あるいは休日の午後のひとりの時間に、目を閉じて心静かに音楽に耳を傾ける――良い音で聴く音楽のある暮らしがいかに幸せなことか、Pi6は教えてくれる。

製品の詳細はBowers & Wilkinsの公式HP

PHOTOGRAPHY: TADA TEXT: SUGAWARA GO