CLARENDELLE TO THE 97th OSCARS®

3月2日に開催された映画の祭典・アカデミー賞授賞式で、ボルドーワイン・クラレンドルが振る舞われた。同賞で提供される唯一のワインとして3年目をむかえた快挙を紐解くとともに、ワイン造りのキーマンへのインタビューを通してクラレンドルの魅力に迫る

PHOTOGRAPHY: KOGA MOTONORI
 TEXT: NISHIDA YOSHITAKA

アカデミー賞での脚光

3月2日、ハリウッドのドルビーシアターで開催された第97回アカデミー賞授賞式。ノミネート作品に関わる映画関係者が世界中から集う華やかな会場で、映画ファンとともに受賞者たちの栄誉を祝福したワインが「クラレンドル」だ。

ボルドーのメドック格付け一級の系譜に連なるクラレンドルは、シャトー・オー・ブリオンなどのグラン・ヴァン(偉大なるワイン)を手掛けるドメーヌ・クラレンス・ディロンが、一流の味わいと気軽さを実現させた、アートを彷彿させるようなワイン。2023年から3年連続で、映画芸術科学アカデミーおよびアカデミー映画博物館の公式ワインパートナーに、クラレンドルとドメーヌ・クラレンス・ディロンが選ばれている。

「家業に参加する前、私は映画脚本家としてキャリアをスタートさせました。アカデミー賞で振る舞われるワインとして3年連続で指名されたことは、このうえない栄誉です」

そう話すのは、クラレンドルの生みの親であるルクセンブルク大公国のロベール殿下。ロベール殿下は家族経営企業であり続けるドメーヌを4代目として継ぎ、現在は会長兼CEOを務める。

ドメーヌ・クラレンス・ディロンの物語は、殿下の曽祖父であるクラレンス・ディロンが、シャトー・オー・ブリオンを買い取った1953年に始まった。その後は、シャトー・オー・ブリオンと絡み合うように物語を紡いできた偉大な隣人であるシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンや、ボルドー右岸の名醸地であるサン・テミリオンのシャトー・カンテュスを傘下に収めるなど、事業を拡大。ボルドーの偉大なるワイン生産者としてのみならず、文化・芸術活動に惜しみない支援を行うワインファミリーとしても、その名声を高めてきた。

一昨年、昨年に続き、ドルビーシアターでのセレモニーでは、そんなワインファミリーが生んだ「クラレンドル・ルージュ」と「クラレンドル・ブラン」が振る舞われ、輝かしい瞬間に華を添えた。

さらにはアフターパーティーの“ガバナーズ・ボール”や、アカデミー映画博物館での“オスカーナイト”など、あらゆる関連イベントにクラレンドルが登場。他にも、希少なボルドーワインとして名高い「ラ・クラルテ・ド・オー・ブリオン2021」や、シャトー・オー・ブリオンと同じ畑のブドウを使った「ル・クラレンス・ド・オー・ブリオン2015」など、愛好家垂涎のワインが特別な料理とともに提供された。

テロワールを体現する緻密なブレンドから、飲み頃を迎えたものだけを出荷する熟成の管理まで、一切の妥協なく造られるクラレンドルは、まさにワインファン待望のデイリーボルドーといえる。その誕生の背景には、“手が届かないボルドーの格付けワインに替わる、同地のテロワールやビンテージを反映した良質なワイン”を希求した、若き日のロベール殿下の思いとアイデアがあった。

フランスには人々の暮らしに根付く「アール・ド・ヴィーブル」という哲学がある。生きることは芸術であり、自らの感性をもとに知恵と工夫を凝らすことで、何気ない日常を楽しくするという生活の美学だ。

アカデミー賞の華やかなセレモニーの舞台裏でひと際の脚光を浴びていたのは、そんな哲学を体現する、唯一無二の物語を持つワインだった。

上:アカデミー賞に出席したロベール殿下と娘のシャルロット王女(2024年)下:スターが集うアカデミー賞の舞台で、ひと際の輝きを放つクラレンドル©A.M.P.A.S.

ILLUSTRATOR:NISHIDA MAO

INTERVIEW フランス・ボルドーのテロワールを生かす

クラレンス・ディロン・ワインズ事業本部長 ナタリー・バソ・ドウォーキンに訊くワイン造りにかける情熱とは

生かされる一流の叡智

今年もアカデミー賞に華を添えた「クラレンドル」。今や世界中のワインファンたちに愛されるこのワインは、2005年に誕生した。その翌年にクラレンス・ディロン・ワインズに入社し、以来クラレンドルの製造を率いるのがナタリー・バソ・ドウォーキンだ。

ナタリーは、ワイン造りに魅せられて香水業界から転身した経歴を持つ。クラレンドルのブレンドに関わるにあたり、「ロベール殿下は確固たるビジョンを共有してくれた」と、彼女は話す。

「それは『耽美的で果実味豊か、そして気軽に楽しめる親しみやすいワインを造ること』というものでした。その方向性は明確で、一貫した品質を維持しながら、厳格な基準に沿ったワインを生み出すことが求められたのです」

今年のアカデミー賞では、赤ワインの「クラレンドル・ルージュ2016」と、白ワインの「クラレンドル・ブラン2023」が振る舞われた。太陽の恵みと暑く乾燥した夏がもたらした、“次世代のグレートビンテージ”と評される2016の赤ワインは、熟した果実味が際立つ魅惑的な味わい。一方の白ワインは、ふくよかな果実味と爽やかさの中に適度なミネラルも感じられる、優れたボルドーの白ワインの見本のような味わいだ。

クラレンドルのワインに一貫するのは、豊かな果実味と繊細なテクスチャー、そして卓越したバランスとエレガンス。まさに“良質なボルドー”としての美点を備えながら、手頃な価格帯や幅広い料理との相性など、日常に寄り添ってくれる懐の深さも持つ。

使用されるブドウはもちろん、ボルドー伝統の品種だ。

「私たちが主に扱うのは、右岸のアントル・ドゥー・メール産やコート・ド・カスティヨン産のメルロとカベルネ・フラン、そしてペサック・レオニャンやメドック産のカベルネ・ソーヴィニヨン。ジロンド地方の各地域に広がるパートナー・ワインメーカーとともに、その年に最も優れたブドウを厳選し、テロワールごとの熟成の特性を見極めながら慎重にワインを組み合わせることで、完璧なバランスと調和を生み出しています」

ボルドー全体に広がるパートナー・ワインメーカーは約20。ブドウの栽培からワインの醸造、環境への配慮まで、ドメーヌ・クラレンス・ディロンが誇るグラン・ヴァンと同等の基準が設けられ、高い品質が保証される。

そうしたボルドー全域からの最良のワインの選別に加え、同地伝統のブレンドにも、ドメーヌが培ってきた叡智が存分に生かされる。

「数日間にわたるブレンド工程では100種類以上のサンプルをテイスティングして、その中から最良のものを厳選し、様々なブレンドの組み合わせを試しながら調整を重ねていきます。ブレンドの技とは、果実味、骨格、タンニンの質、そして生き生きとした味わいの完璧なバランスを見つけること。まるでパズルのように、すべてのピースがシームレスに組み合わさって初めて、調和の取れたワインが完成するのです」

クラレンドルはその品質において、一切の妥協をしないとナタリーは言い切る。

「もちろん各ビンテージはその年の気候に大きく左右されるため、ブドウ栽培の技術やワイン造りを完全にマスターしていても、毎年同じようにはいきません。ワイン造りは常に新たな挑戦であり、自然の進化から学び、インスピレーションを得る機会を私たちに与えてくれます。歴史あるドメーヌが持つ専門的な技術と経験、そして同じ情熱を共有するチームによってブレンドされ、完璧な熟成を経たクラレンドルは、複雑でありながら優雅で親しみやすい味わいの中に、ボルドーのテロワールを忠実に映し出します。クラレンドルのワインは、いわば芸術のようなもの。ワイン造りにおける真の芸術とは、自然の変化に適応し、最高のワインを生み出す能力にあるのです」

2024年の収穫の様子。ナタリー氏も収穫期には畑を訪れ、その年々のブドウの出来を確認し、生産者との交流を行う。クラレンドルにとっての大切な時間だ

モンターニュ・サン・テミリオンの提携ブドウ畑。パートナーはボルドー全域に広がる

現代を生きる人々への賛歌

クラレンドルでは、消費者が購入後のワインをすぐに最良の状態で楽しめるよう、瓶内で数年間熟成させ、飲み頃を迎えたワインだけをリリースしている。自宅で長時間寝かせる必要がなく、本格的な味わいをそのまま堪能できるのが魅力だ。

そんなクラレンドルのワインは、「手軽に本物の味わいを楽しみたい」という現代の飲み手の嗜好にマッチする。Netflixの人気ドラマ「エミリー、パリへ行く」シリーズをはじめ、多くのドラマや映画で、洗練されたモダンなライフスタイルを象徴する存在としてクラレンドルが登場するのも、その証左と言えるだろう。

「私たちの目標は、ボルドーに根差したサヴォア・フェール(伝統的な匠の技)と、アール・ド・ヴィーブル(暮らしの中の芸術)を、現代的で洗練された表現に昇華させたワインを造ることです」

一本のボトルに込められているのは、ボルドーの偉大なるシャトーに受け継がれ今も進化し続けるワイン造りの技と、現代をクリエイティブに生きる人々が、より豊かな日常を実現するためのエッセンスだ。

「ボルドー全域のアペラシオン(産地)から表現される、メドックやサン・テミリオンなど、豊富なスタイルが揃うクラレンドルのワインは、日本の人々の暮らしの様々な瞬間にもマッチするはずです」と、ナタリーは話す。

特に「クラレンドル・ブラン」の繊細な味わいは、日々の食卓に並ぶ和食と合わせても面白い。ボルドーワインの真髄を気軽に。誰もが今日から取り入れられる、新たなライフスタイルの提案だ。

CLARENDELLE ROUGE/CLARENDELLE BLANC

クラレンドル・ルージュ(左)、クラレンドル・ブラン(右)ともに、750mlボトルで価格は3,300円。他にもロゼ、アンバーなども生産しており、全国のワインショップ・エノテカ、またはエノテカ・オンラインなどで購入可能。https://www.enoteca.co.jp/