2023年11月開催の世界最大級の写真フェア「PARIS PHOTO」で発表となった、森山大道 写真集『THE TOKYO TOILET / DAIDO MORIYAMA / SWITCH』。雑誌『SWITCH』の約3年にわたる連載を再編集した本書は、国内外で活躍する建築家やアートディレクター、デザイナーといったクリエイター16名によってリニューアルした、渋谷区17カ所の公共トイレを捉えた46枚の写真で構成されている。まったく異なる公共トイレでありながらも、どこか共通したアトモスフィアを漂わせるその写真群は、日常の中に潜む不思議な異空間へと見る人を誘う。
300mm×300mm上製/96ページ/本体9,000円(税込9,900円)
造本設計:町口覚 発行:SWITCH PUBLISHING
<制作背景>
2020年6月、デビューから55周年を迎えた森山大道は、大規模展覧会「森山大道の東京 ongoing」を東京都写真美術館で開催した。「ongoing=進行中、進化し続ける」をテーマに、80歳を越えてなお現役として写真界の最前線を走り続ける森山の近作が並んだ会場には、コロナ禍でありながらも多くの人々が訪れていた。その観客の一人に、THE TOKYO TOILET(以下TTT)プロジェクト*の発案者・柳井康治の姿があった。都会の清濁を併せ呑み、陰と陽を見事に捉えた作品群に柳井は感銘を受ける。同時に、自身がプロジェクトとして関わる「公共トイレ」との親和性を感じずにはいられなかった。日常の中に存在しながら、汚物を流して綺麗にするという両義性をもつ、公衆トイレという異質な空間。その新たな局面を記録する写真家は森山大道しかいない、柳井はそう確信した。
後日、柳井はTTTプロジェクトに込めた思いに共感し、その軌跡を連載という形で丁寧に紹介していくという企画を立てていた雑誌『SWITCH』編集長の新井敏記に自身の思いを伝えた。「果たして世界的な写真家森山大道にトイレを撮ってもらえるのだろうか」。新井は一抹の不安を感じながらも、森山の数々の写真集を手掛けてきた造本家の町口覚へと打診する。連絡を受け、過去に森山が撮った数えきれないほどの公共トイレの写真を見返す町口は思う。生涯現役を貫き、常に進化を続ける森山が、日本が世界に誇るクリエイター陣がデザインしたトイレを撮ったらいったいどんな作品が生まれてくるのか。森山の現在地を見たい。それは町口だけでなく、柳井と新井の共通の願いでもあった。
「面白そうだね。僕がトイレを撮らないで何を撮るの」。森山のその一言から、本書のベースとなる足掛け3年にわたる連載「Scene THE TOKYO TOILET」が幕を開けた。
「THE TOKYO TOILET」プロジェクトとは
日本のトイレを世界に誇る「おもてなし」文化の象徴としてとらえ、これまでの公共トイレに対する「暗い、汚い、臭い」といったイメージを覆し、性別年齢、障がいの有無を問わず、誰もが快適に使用できるトイレへとリニューアルするプロジェクト。ファーストリテイリング取締役兼グループ上席執行役員である柳井康治を発案者として、国内外で活躍するクリエイター16名が参加。2020年8月より供用を開始し、現在までに渋谷区17カ所の公共トイレを新しく生まれ変わらせている。2022年6月にはこのプロジェクトは海を渡り、世界最大規模のデザインの祭典である「ミラノデザインウィーク」に展開した。そして2023年11月には世界最大級の写真フェス「PARIS PHOTO」での特設ブース展開、12月公開の映画『PAEFECT DAYS』制作につながるなど、この活動は今なお広がり続けている。