1893年にイギリスで創業されたファッションブランド「dunhill(ダンヒル)」。創業者のアルフレッド・ダンヒルが馬具専門の製造卸売業だった家業を受け継ぎ、衣類や小物などの販売へと拡大をさせていった。現在ではメンズラグジュアリーブランドとして英国紳士の代名詞とも言われるダンヒルの創業130周年を記念したイベントが東京・九段下にある九段ハウスで行われた。
今ではスーツやバッグ、革靴などの紳士用品の印象が強いダンヒルだが、創業当初は自動車が普及し始めた時期とも重なっており、オープンカーに乗る際に着用するゴーグルやコート、レザー用品に力を入れていた。またライターやタバコなどの喫煙具の販売も多く手掛け、現在でもバッグなどのデザインの中にその頃の面影が残されている。
今回行われたイベントでは、これまでのダンヒルの歴史を振り返る貴重な品々が1階エントランスで展示されていた。その中でも特に目を惹いたのが、1930年代にピカソが自身のミューズであるドラ・マールに贈った「トールボーイ」のライター。シンプルで端正なフォルムのライターに、ピカソ自身が刻印したドラ・マールの肖像画がユーモラスな一品だ。
また、2階では日本とイギリスの“紳士の遊び”を楽しめる空間が広がっていた。ダンヒルが創業されたイギリスからはテーブルサッカー、そして日本からは香道が体験できるスペースが設けられた。香道というと一般的には馴染みがないかもしれないが、室町時代から500年以上続く日本の伝統的な芸道のひとつで、香木を焚き、その香りに詩的な情景を浮かべながら時間を楽しむ。このイベントでは志野流家元後嗣 一枝軒宗苾氏によって、ダンヒルのために選んだ希少な香木を焚く香道体験のパフォーマンスが披露された。
3階にあるトップルーフでは葉巻とウイスキーのマリアージュが楽しめるウイスキーバーとシガーバーが設けられていた。葉巻は一本当たり、30分、1時間と吸い終わる時間が決まっている。葉巻に火をつけ、ゆっくりと煙を燻らせていると、時間という無形の概念が物質化したような錯覚に陥る。葉巻を吸いながら、さらにウイスキーという時間をかけて醸造される飲み物を口にしていると、ダンヒルが歩んできた130年という圧倒的な“時の長さ”に打ちのめされてしまう。これまでも、そしてこれからも脈々と受け継がれていく紳士の嗜みを感じられる一夜であった。