自宅の庭から生まれる音
—— お二人がこのコロナ禍に始められた「庭Tube」がとても印象的です。ご自宅の庭で歌われる光景をYouTubeで配信されていますが、この配信を始めた理由を教えていただけますか?
佐野 ちなみに「庭Tube」を配信する時は、洗濯竿を外すところから始まります。
佐藤 所帯感が出過ぎちゃうからね(笑)。始めたのは二年前の最初の緊急事態宣言の時だったと思うのですが、あの時は自粛期間でしたからね。電車に乗るのもはばかられる時期で、外に出ること自体が良くないというムードでした。それならば自宅の庭を活用しよう、と。
佐野 本当は毎回いろいろな場所を巡って動画を撮りたいと思い、近所の公園も見て回ったのですが、音を出して大声で歌って収録できる場所なんてどこにもなくて。
佐藤 住宅地では、人が全く通らない場所なんてないですからね。
—— でも、自宅の庭でもそれは同じではないですか?
佐野 やけに今日は人が通るな、と思う時はありますね。新聞配達のバイクが通ったり、郵便や宅配便が重なって撮影が中断されたり。
佐藤 風が強すぎて、画面が揺れてしまったりね。スムーズに進む時はすぐに撮り終わるのですが、間が悪い時には周囲の雑音が入ってしまい、どうしても撮れ高が低い日もあります。
—— 開始から2年経った今でも続いているのは視聴者としては嬉しいですし、お二人のご自宅の庭から四季の移ろいを感じられるのも楽しみのひとつです。
佐藤 四季は感じられますね。葉っぱが散って、服も秋物になっていたり。
佐野 地道に続けていきたいな。大変ですけど……。
佐藤 動画も80本は超えて、そろそろ100本になるんだよね。
佐野 隣にお住まいの方には、生で「庭Tube」が聴こえてしまっているのですが、ある時「僕もフォークが好きなんだよ」と言ってくださって。
佐藤 フォーク世代の年配の方でしたね。苦情じゃなくてよかった。
—— 庭で演奏するには、フォークソングという表現形態が合っているのかもしれません。
佐藤 隣の方はもしかしたらロックも好きかもしれないけれど、庭でエレキギターなんてかき鳴らしたら、すぐに苦情が飛んでくるしょうね。エレキギターを鳴らせたら「庭Tube」のレパートリーも増やせますけど、それだと庭ではできなくなっちゃいますから。
佐野 でも最近はレパートリーを増やすべくキーボードも導入したよね。
佐藤 そうそう。重いキーボードを二階の部屋から庭まで運ばないといけないから面倒なんですけど(笑)。最初の緊急事態宣言の時は、スタッフに来てもらうこともできなかったので、自分たちのできる範囲で始めなければなりませんでした。録音は普段から自宅でやっていたので慣れてはいたのですが、動画の撮り方や編集は勝手がわからなくて。スマホで撮る以外の方法は知らなかったし、それでもよければ……という感じでした。
佐野 クリップ式のスマホホルダーを窓のサッシに引っかけて撮っているんです。結果的には、この「庭Tube」を始めて良かったと思っています。もともとYouTubeの「ハンバートチャンネル」は以前からあったのですが、それまではほとんど更新できていませんでしたから。
佐藤 YouTubeに関してはそれほど積極的ではなかったからね。
佐野 「庭Tube」を始めて定期的に動画を配信するようになってからは、外国の人も観てくれるようになって。しかも国籍もわからないくらい様々な言語でコメントを残してくださって、それは本当に嬉しかったです。
佐藤 嬉しいよね。これまでYouTubeのコンテンツ作りに情熱を注いでこなかった分、「庭Tube」は「いいものを見つけたな!」という感じですね。
—— 「庭=ハンバート ハンバート」のイメージがもうすっかり定着しているので、他のアーティストも庭では配信できませんね(笑)。
佐藤 今から始めても追いつけないでしょうしね(笑)。僕らが「庭Tube」を始めたのはたまたまですけど、まだまだ改善の余地はあると思っています。スマホを最新の機種にしたらどうだろう、なんて考えたりもしますが、そこまで映像の美しさにこだわりもないですし……もう少し近寄って撮影したほうがいいのかな? 外部マイクをスマホに付けたら、音質もさらに良くなるとは思いますけど、結局のところ「……まぁいっか」という感じで(笑)。たまに雑音が入ってくるくらいの今の「庭Tube」のほうが自然で、ハンバート ハンバートらしいのかな、なんて思っています。
再び戻りつつある日常
—— 最近になってようやく、ワンマンライブや野外フェスでハンバート ハンバートのライブを生で観られる機会が増えてきて嬉しく思います。
佐野 少しずつ元に戻ってきたな、という実感はありますね。
—— 去年まで野外フェスでは、観客同士が2メートル間隔で距離を取らなければなりませんでしたが、そうした規制も以前よりだいぶ緩和されてきました。
佐藤 ステージから見える景色は確かに変わってきました。お客さんは声も発してはいけない雰囲気でしたから。
佐野 息が詰まりますよね。
佐藤 それでもライブができるだけまだ良かったのですが、今はもうちょっと雰囲気も緩やかになってきましたよね。まだ観客席の足元にマス目で立ち位置が指定されていたり、椅子席も前ほどは詰められなかったりするけど、だいぶ変わってきました。
—— コロナ禍の最初の頃と比べると、演奏のしやすさもずいぶん違ってきたのではないですか。
佐藤 そうですね。でも、僕らの場合はもともとコール&レスポンスがあるような演奏形式ではないですから、そこまで困ることはなかったですね。
佐野 以前のようにお客さんがライブに戻ってきてくれたのはもちろん嬉しいですが、コロナ禍で数は少なくても、それでもライブに来てくれるということが何よりありがたかったです。
—— 野外フェスも含めて、ライブで全国を飛び回っていたお二人でしたので、また自由に移動できる日常が戻りつつあるのは嬉しいです。佐野さんのInstagramやYouTubeからも、お二人の衣・食・住が垣間見えるのがいいですよね。ハンバート ハンバートの音楽と、お二人の家族の暮らしとが密接に繋がっている感じがします。
佐野 一緒に暮らしているからか、食べ物の好みと音の好みは結構通ずるところがありますね。
佐藤 確かに似ているね。
佐野 余計なものがくっついているのが嫌なんです。例えば食べ物でも、シンプルに塩だけの味付けで食べるのが二人とも好きですし。お刺身も好きですけど、それも単に魚を切っただけだし。
佐藤 ……別にそこまでストイックというわけでもないんですけどね(笑)。素材そのものの味が好きなんです。ただ、なんでもかんでも新鮮なモノ、新しいモノならいいというわけではなくて。音楽においても、新鮮な印象を受けるモノは確かにインパクトは強いけれど、無理して自分たちの音楽にそうした要素を取り入れる必要はないかな、と思っています。本当に自分がいいと思うものを、自分のやりたいようにできていなければ、聴く人の心には響きませんから。自分の好みの味付けで好きなモノを食べて、好きなモノを着て、好きな音楽を続けられているのは本当にありがたいことです。
佐野 本当にそうだよね。
佐藤 だからこそ、僕らはずっとこのままの音楽で、無理して変わらなくてもいいと思っています。