Foxfire True to nature Vol.14 秦達夫

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、自然に対して真摯であること。表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。日本の繊細な自然の姿を発表し続けてきた写真家 秦達夫が風景写真に込めたメッセージ。

秦達夫 70年長野県飯田市遠山郷生まれ。自動車販売会社・バイクショップに勤務。後に家業を継ぐために写真の勉強を始め自分に可能性を感じ写真家を志す。写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。
構成=Coyote編集部

写真家としてこれまで白神山地や屋久島といった世界自然遺産をはじめ、尾瀬や黒部源流域といった場所に通って作品を発表してきました。このような自然豊かな場所に季節ごとに足を運び、多い所では四季を通し60回以上も通って撮影しています。それだけ通う理由としては、その土地に受け入れられて初めて見せてくれる自然の表情があると思っているからです。違う季節に見に来たらどんな光景が広がっているんだろうと想像するのも楽しい。それに、なぜ自分はこんなにもこの場所に惹きつけられるのか、その本質的な部分をどうにか表現したいという思いもあります。

例えば山の上では人と人との距離が近くなりますよね。山小屋ではお互い名前も知らないのに会話が弾み、都会では感じづらい人の絆や縁を強く意識できる。そんな特別な時間があるから、毎回登るのは辛いとわかっていても足を運んでしまう。そういった自分を駆り立てる何かに興味があるのかもしれません。

もし僕が絵を描くのが得意だったら、それを絵で表現するだろうし、文章を巧みに操れたら文章で表現していると思います。あいにく僕は写真しかできないので、自分が見たものや体験したことを写真で誰かに伝えたい。意識しているのは、自分が見たままにその空間全体を伝えること。だから僕はインスタ映えを狙った明瞭度の高い撮り方や、部分的な魅せ方をするフレームでの撮り方はしません。

僕にとって重要なのは、誇張していないありのままの自然の姿を伝えることであって、僕の作品を見た人が「この景色を見たい」と思った時に、実際に見に行けることなんです。特別な技術を持った人だけが行ける景色ではなく、誰にでも開かれた身近で美しい自然を写真に収めることに意味を感じています。

日本の風景の魅力は色彩にあると思います。これは僕の師匠が常に言っていた事ですが、日本には四季があり水が豊富で樹種が多く森が豊かである。それが色彩に繋がる。しかも日本の自然は人との共生の中で美しさを増すんです。粗野な感じが抜けると言ったほうが良いですかね。原生の森の神秘的な魅力も勿論ありますけどね。その代表的存在が棚田をはじめとした里山です。人々が長い年月を掛けて作ってきたものです。これらが複雑に交わりあって絶妙なバランスを保って日本の風景の美しさがあるのです。でも、そのバランスが崩れてきているように感じてなりません。

今年は桜の開花が全国的にとても早かったですよね。その時期の平均気温が例年よりも1、2℃上がるだけで、開花のタイミングが早まってしまう。近代農業が始まる前は桜の咲くタイミングが種まきの合図でしたし、自然と連動した生活がこの国にはあった。それだけで日本人と自然との繋がりの深さを感じますよね。今一度人と自然との関係を見直す事が大切だと思います。人がいなくなればいいなんて極論を言う人もいますが、決してそうではない。人も自然の一部、そのことをまずは思い出すことが必要かもしれません。

自然と遊ぶ、自然に遊ぶ
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<問い合わせ>株式会社ティムコ 03-5600-0121
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