FROM EDITORS「拍手なりやまず」

シス・カンパニー公演の『草枕』の演技が高く評価された小泉今日子さんが、第50回紀伊國屋演劇賞を受賞された。その受賞式が1月26日新宿の紀伊國屋ホールで行われた。第50回を記念して団体賞、個人賞と並んで特別賞として男優賞や女優賞も選ばれていた。長年の演劇界への功績を讃えたものだ。壇上にはそうそうたる演劇人が並んだ。受賞者のスピーチに真摯に耳を傾ける小泉今日子さんがいた。

制作者賞は北村明子さん、男優賞は三谷昇さん、女優賞が市川夏江さんだった。この面々のスピーチがとても個性に溢れて愉快なものだった。北村明子さんは演劇へのきっかけを作った野田秀樹に謝意を現した。「きみしかいない」と、野田にくどかれてこの世界に入った彼女の意志は今でも堅牢で、忙しさも楽しいという。シス・カンパニーを主宰し、1年5回の公演を制作する。稽古から本番まですべて立ち会うという彼女の姿勢にはわくわく感があった。舞台という生に向き合う覚悟に、賞讃の拍手がおこった。

三谷昇さんのスピーチはまるで自分の演劇人としての半生を芝居にした一人語りだった。1963年、芥川比呂志をはじめ中堅、若手劇団員が文学座から離反し「雲」を結成した時のこと、残るべきか悩んだ時に家事をしながらふともらした妻の一言、「好きな人についていくのがいい」と、三谷の壇を台所に変えた仕草が笑いと涙を誘った。1975年には「円」に参加、別役実や蜷川幸雄の演出家はもとより、黒澤明『どですかでん』をはじめ、伊丹十三などの名監督に重宝された三谷さんの俳優としてのすごみの一端が披露された。

市川夏江さんは歌を歌い、空気を一変させる。この度胸、はんぱない。「私は雑草、その雑草に光をあてられた。すべてのみなさんに感謝します」といって深く一礼する滑稽さに目頭は熱くなる。どこにも寄りかかることなく舞台に立つ無名の人にこそ励ましが必要なのだと思った。しかし彼女には愉快で滑稽で少し哀しい仲間がいる。その人々への励まし、いつまでも拍手がなりやまないことを願った。

スイッチ編集長 新井敏記