沖縄に住む写真家垂見健吾さんが最近断捨離をはじめた。東京のデパートで開かれる沖縄物産展でブースを借りて、自分のコレクションを販売するという。電話口で少し嬉しそうに話す垂見さんが少し心配になった。1948年生まれ、まだまだ老いる歳ではないと思った。長野県の山合いに生まれた垂見さんが、沖縄に出会ったのは1973年の時。風光、風景、人、沖縄の文化は実に濃厚で垂見さんを虜にした。写真を通して人と向き合い、その人の過ごしてきたかけがえのない時間を描く。題して「琉球人の肖像」、実に魅力的なテーマを見つけた垂見さんはついに沖縄に住むことを選んだ。そして垂見さんは「南方写真師」と名乗っていく。
その垂見さんが貴重なコレクションを手放す、まさに垂延の品物ばかりだろうと勝手に思って盛り上がった。
「デパートの前にぜひスイッチで展示してください」
すぐに垂見さんから大量の写真が携帯に送られてきた。しかし品物の良さは正直その写真では伝わらないと愚痴ると、翌週、垂見さんはなぜか大きなアイスボックスいっぱいに品物を詰めて上京してきた。
「今回はガラスと陶器」
垂見さんは着くと早々、大きなテーブルに器を並べた。形の気に入った湯のみを見つけたスタッフが「この作家は?」と垂見さんに訊ねた。「大嶺實清」と彼は小さな声で答えた。なにやら自信がなさそうだった。沖縄で有名な作陶の一人、すごいものを持ってきたらしい、垂見さんが可笑しかった。垂見さんが言い切ればいいと心で思った。スタッフが訊ねた。「これいくらですか?」
垂見さんは「一万円」と答えた。大嶺さんがその価格? 驚いて声をあげた。すると垂見さんは「七千円」と続けた。えっと驚くスタッフの顔を見て「五千円」となぜか安くしていく。逆でしょう、なんでどんどん下がる? 垂見さんはもっと下げそうになるので、慌てて止めた。そして僕はスタッフに言った。「一万円」。たとえ、大嶺さんでなくてもたくましい形、透き通る色、悪くないと思った。垂見さんは微笑みを浮かべた。僕が魅かれた沖縄の顔だった。
スイッチ編集長 新井敏記