FROM EDITORS「スイッチ」/ 谷川俊太郎

一回路二接点というのがもっとも単純なスイッチである
上に上げると電気が点いて下に下ろすと電気が切れた
オンは赤オフは黒 二者択一のスナップ・スイッチ
ラジオの組み立てに夢中だったころの話だ

高周波一段のオールウェーブ・スーパーヘテロダインともなると
スイッチも六回路四接点などと複雑化して
だんだん経験の浅い少年の手には負えなくなった
それだけスイッチも人生の現実に近づいたということか

年を経るにつれてスイッチはますます洗練の一途をたどり
今ではオンオフだけですむスイッチは枕元のスタンドくらい
本に飽きてパチンと切って懐かしい暗闇に身をゆだねると
夢の迷路では無数のスイッチがせわしなく現実を明滅させる

切ってしまいたいと思う関係は一つ二つにとどまらない
だがつなげていきたいと願う関係はもっと多い
精妙な脳の回路ではすべてが何兆というスイッチの仕業なのか
迷いも選択も出会いも別れもどんなに果敢な決断さえも

二本の線路が地平を望む幸せな時代はいつか過ぎ去り
錆びついた転轍機の上を軽やかにツバメたちが舞っている
ぼくら人類最後のスイッチだけは押すまいと
きりのないネットワークをここからどこへと右往左往している

かつて谷川俊太郎さんより1篇の詩が小誌におくられた。
その詩をここに再掲する(「SWITCH」2003年1月号より)