GO THE WILD SIDE OF MUSIC VOL.8 すばらしか

GO THE WILD SIDE OF MUSIC――VOL.8 すばらしか

変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第8回は現代のブルースを奏でるロックバンド・すばらしか

PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI 
TEXT: ITAKO JUNICHIRO

 

DNA MUSIC
すばらしかが魅かれる、濃厚なロックの名曲30

60年代、70年代のロック、フォーク、R&Bを中心に、すばらしかの4人全員が愛してやまないマスターピース30曲


 

INTERVIEW
僕が書く歌はブルースなんです

「今、俺、音楽しかしたくない――」
 
 
2015年に結成されたロックバンド、すばらしか。彼らのファーストアルバム『二枚目』はそんな叫びから始まる。全10曲が収録された本作は60~70年代のロックンロール、R&B、フォークからレゲエまでを昇華した良質なバンドミュージックだ。
 
 
「前に組んでいたバンドの頃に作っていた曲がいくつかあって、それをやるためにまた新しく組み直したのがすばらしかなんです。メンバーは幼馴染みだったり、大学が一緒だったり。たまたま好きな音楽が似ていた4人が集まったという感じです」
 
 
フロントマンの福田喜充はバンド結成の経緯をそう語る。だが、メンバー全員が20代前半だという彼らがルーツミュージックに根ざしたサウンドをこの時代に鳴らしていることはとても新鮮だ。
 
 
「今は割と新しめの時代の音楽からエッセンスを抽出しているバンドが多いかなとは思いますけど、でもそうした音楽をさらに辿っていくとやっぱりジャズやブルースに行き着く。古い音楽ほどやっぱり濃いんですよね。パンチが効いているというか。べつに周りと違うことをやってやろうという意識はないですけど、僕らみたいなオーソドックスなバンドが今の時代に少ないことは確かですよね」
 
 
そしてもうひとつ。すばらしかの大きな特徴は日本語にこだわって書かれた歌詞だ。「英語で書けるなら英語で歌いたい。そのほうが気持ちいいから」と福田は言うが、ぶっきらぼうな言い回しで彼が描き出す歌詞の世界からは、ほんの少し何かに届かない、間に合わないという諦観、やり切れなさが滲む。
 
 
「普通に生きていたらそういうことばかりじゃないですか。僕が書く歌はブルースなんです。働きたくないけど、バイトしなくちゃ生きてはいけないし、そういう日常の中で思ったどうしようもないことや、ムカついたことが歌詞のベースになっていると思います。SNSにみんなキラキラした写真とかをアップしていますけど、それは表面的なことで、実際はそれぞれにいろいろしんどいことを抱えながら生きていると思う。よく友達と愚痴っているんですけど、世の中、ほんとに世知辛いですよ」
 
 
メンバー全員での撮影中、4人の佇まいはどこか浮世離れしていて、でもそれがとてもロックバンド然としていて魅力的に見えた。そのことを伝えると福田は笑いながら言う。
 
 
「集合時間に全員遅れるとか社会人としてあり得ないですよね。正直、僕以外の3人はろくにバイトもしてないですしね。どうやって生活しているのか僕も不思議です」
 
 
すばらしかの4人は世の中の常識からはみ出してしか生きられない人間だからこそ、ロックバンドをやっているのではないだろうか。
 
 
「そもそも最初にロックを始めた人たちは基本的に不良と呼ばれる人種だと思うんです。もちろん才能がないとできないことだけど、不良的なノリと若さで音楽をやって、それが結果的に世の中のいろんなものをぶち壊していった。それがロックの面白さ。社会に必要とされていない、社会に迷惑をかけてしまうような人たちが音楽を通して大きな支持を集めて金持ちになってしまう――その逆転性みたいなものもロックの魅力だと思う。そうなるためには自分自身の生き様全部を音楽にぶつけなくちゃいけない」
 
 
あらためて、すばらしかはそういうバンドではないのか?と問うと、「少なくとも僕自身はそういう人種ではないと思います」と福田は言う。しかし、どこか醒めた視点で世の中を眺め、鋭い言葉を不敵な笑みを浮かべながら叩き付けるすばらしかは、ロックバンドとしてどうしようもなくチャーミングだと思う。

 

GO THE WILD SIDE OF MUSIC――VOL.8 すばらしか
すばらしか 2015年結成。メンバーは福田喜充(Vo&Gt)、加藤寛之(Ba)、中嶋優樹(Dr)、林祐輔(Vo&Key)。2017年に初の全国流通盤EP「灰になろう」をリリース。現在、ファーストアルバム『二枚目』が発売中
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