変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第13回はDIYにこだわり軽やかに音楽と戯れるMom
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
Momの音楽的冒険心を刺激する30曲
ヒップホップやブラックミュージックを中心に、世界の音楽のトレンドを柔軟に取り入れるMomの音楽的スタイルの土台となる楽曲たち
INTERVIEW
音楽はカジュアルなものでいい
現在21歳のMomは、小学3年の頃にB’zの音楽に惹かれ、そこからハードロック、90年代のオルタナティブロック、00年代のインディロックへと辿り着き、中学生の頃にギターを手にし、高校では軽音楽部に入りバンドを組んだ。しかし、やがて彼の中で違和感が生まれた。
「中学ぐらいから音楽を作ることを仕事にしたいという意識があったんですけど、バンドを一緒にやっている人たちは自分と同じような熱量で音楽に向かっていないと感じて。それなら自分ひとりで作ったほうが面白いことがやれるんじゃないかなと考え、iPhoneにあるガレージバンドというアプリでギターポップっぽい曲を作り始めたんです」
そんな時期に出会ったのがチャンス・ザ・ラッパーだった。初めて触れたヒップホップという音楽に、Momは衝撃を受けたという。
「ずっとロックばかり聴いてきた自分にとってはまったく新しい音楽に感じられたんです。ロックの人たちにはない、良い意味でのユルさやラフさをリズムや言葉の乗せ方に感じて。それでヒップホップの歴史を掘り下げていくうちに、自分がやりたい音楽はこういう方向なんだという思いがさらに強くなっていったんです」
そうして彼が目指したのが、ヒップホップやブラックミュージック的なセンスを取り入れたトラックに人懐っこいグッドメロディを乗せた音楽。先日リリースされたファーストアルバム『PLAYGROUND』はまさにそういった楽曲たちが集まった1枚となった。そんな作品を創り上げる上で、MomがこだわったのがDIY感だったという。
「音楽というものはもっとカジュアルなものであっていいと僕は思っているんです。日本の音楽は特にそうなんですけど、作り手以外のいろんな大人たちが関与し過ぎているものが多い気がして。ガレージバンドで作っているのは、オモチャっぽいかわいい音の質感を出したかったということもあるけど、自分ひとりで完結できる形で作りたいからという理由もあるんです。それぐらい身軽に音楽を作りたいなって。アートワークを自分で手掛けたのもそういう気持ちの表れなんです」
カジュアルに音楽を作りたいと語りながら、一方でMomはいかにリスナーに親しみを覚えてもらえるかということも考えている。
「日本で音楽を作るとなったら、歌詞に関してはやはりJ-POPのベーシックな構造としてある“君”と“僕”というモチーフを軸にすべきだと思っていて。J-POP的な要素をメインにしつつ、たまにスケールの大きなことを言ってみたり、自分の内省について語ってみたり。そうやって違和感を出すことでより耳に残るような曲になっていくと思うんです」
確固たる自分自身の意志を大事にしながら、Momは常に時代やシーンの動向にも注視しているという。
「最近の音楽のリスニングスタイルはストリーミングがメインになってきていて、アーティストが作品を世に出すスピードもどんどん早くなっているし、音楽のトレンドも目まぐるしく変わっていく。そういう時代のスピード感に乗り遅れないためにも、自分は作ってから世に出すまでに鮮度が落ちないようなやり方で音楽を作りたいし、だからこそ音楽はカジュアルな表現であってもいいと考えているのかもしれない」
Momはさらに言葉を続ける。
「今、次の作品に向けて動きだしているんですけど、さらに尖ったものを提示してもいいのかなと考えています。このリズムにこんなメロディが乗った曲はまだないというものを日本のポップシーンに向けて放ちたい。実験的なことをやり切ってやろうと思っています」