変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第15回は“歌”と“ラップ”を融合させたシンガー・SIRUP
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
SIRUPの“ソウル”を生成した30曲
かつて掘り下げたネオソウルの楽曲から始まり、自分自身の“歌”のスタイルを確立する上で大きな影響を受けた同時代のアーティストまで、SIRUPを理解するためのヒントとなる30曲
INTERVIEW
音楽があることで人生は豊かになる
大阪出身のシンガーソングライター・SIRUP。ラッパーやR&Bシンガーからバンドまで様々なジャンルのアーティストたちと共演するボーダレスな音楽性は確実にシーンの中に浸透してきている。そんなSIRUPはいかにして歌うようになったのか。
「中高生の頃は吹奏楽部に入っていたんですけど、元々歌も好きで、友達と一緒にストリートライブをしたりもしていました。完全にコブクロやゆずの世代だったので。あとはミスチルも大好きでした。ある時、吹奏楽部のOBの方とカラオケに行って、スティービー・ワンダーやアリシア・キーズなんかも聴いたほうがいいよと勧められて。そこからソウルやR&Bにもどっぷりハマって。今思うとポップスとソウル、R&Bを並列に捉えていたのかもしれない。ロックバンドの衝動的な熱さも大好きでしたし。だからどんなジャンルの音楽であっても分け隔てなく、自分の感覚に合うものをいろいろ聴いていた感じですね」
やがてSIRUPはクラブで音楽活動をしていた兄の勧めもあり、本格的に歌い始めた。
「僕は地元が大阪なんですけど、歌い始めた頃はちょうどJ-R&Bシーンが特に盛り上がっていた時期で、5年ぐらいクラブシーンで活動をしていました。だけど風営法の影響もありクラブで歌うことが難しい状況になってしまったんですが、ちょうど同じ時期から始めたバンド編成でのライブに力を入れ出しました」
そして彼は東京に出ていくことを決断する。
「今も変わらずそうなんですが、自分としてはその時々でやりたいことをやり続けてきた結果、今に至ったという感覚で。だからSIRUPとしての活動を始めたこともとても自然な流れだった気がします」
そうして確立されたのが“SING”と“RAP”を融合させたスタイル。SIRUPという名はそれら2つの言葉を合わせた造語でもある。そして今、歌とラップを取り入れたスタイルのミュージシャンが他にも続々と現れ、ひとつのシーンを生み出しつつある。
「ありがたいことにシーンの流れと自分の音楽が噛み合ってきている実感もありますが、常に意識しているのは無理をしてやり過ぎないということ。それは音楽を作る上でも同じで、できるだけ耳障りのよいシンプルな曲を作りたい。だけど何回か聴いているといろんなことに気づいてくるようなスルメみたいな曲がひとつの理想なんです」
さらに彼は言葉を続ける。
「僕はトラックメーカーと意見交換しながら作ったトラックを元にメロディを作っていくんですが、最初はデタラメな英語をバーッと乗せていくことが多く、その時にパッと出てきた言葉から派生させて歌詞を考えていきます。だけど、そうしてできた歌詞ひとつひとつの言葉に明確な意味があるかというとそうでもなくて。僕は英語と日本語をどちらも使いますけど、意味がない言葉も全然入っているし、絶対に韻を踏もうともこだわってない。トラックも含めた楽曲全体を通して聴いた時に変な引っかかりを感じたらそこは削っていきますし。自分の感覚的に気持ちのいい音や言葉を散りばめて、トータルで聴いた時に、何かを感じられるようなものになっていてほしいんです。だから歌だけが前に出ているようなものにはしたくない」
その結果生まれるSIRUPの曲はメロウでスムーズ。だからこそどんなシチュエーションで聴いてもとにかく気持ちがいい。
「音楽というものはある種の贅沢品だと思っていて。なくてもいいものなんだけど、それがあることで人生がより豊かになる。自分の音楽がリスナーにとってそういうものになってくれたら最高だなと思っています」