変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第17回は卓越したスキルとセンスで音楽を追求するNulbarich
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
Nulbarichが愛するブラックミュージック30曲
Nulbarichのフロントマン・JQが多大な影響を受け、こよなく愛するヒップホップを中心としたブラックミュージックのクラシック30曲
INTERVIEW
バンドで好きな音楽をやりたいだけ
2016年に突如として音楽シーンに登場したNulbarich。メンバーの詳細を明かすことなく、ブラックミュージックをルーツにしたアーバンで洒脱な数々の楽曲が徐々にリスナーに広まり、2018年11月には日本武道館でのワンマンライブを開催。今年2月にはサードアルバム『Blank Envelope』を発表した。しかし、そうしたバンドを巡る状況の変化を、フロントマンのJQはクールな視点で見つめている。
「僕らにはNulbarichとはこういう音楽をやるバンドである、というコンセプトはあまりないんです。これまで3枚のアルバムを作りましたが、そのどれもがその時々の自分たちにとってフレッシュな音を、ブログを書き記すような感覚でアウトプットしてきただけというか。メンバー全員、ブラックミュージックが好きという共通項はありますけど、それ以外の趣味趣向はバラバラなので。だから曲の作り方でいうと、それぞれのアイデアを組み立てて曲を作っている感覚ですね」
そう語るJQは元々サウンドプロデューサーとして活動していた経歴がある。そんな彼がNulbarichというバンドを始めたのはふとしたきっかけだったという。
「他の人のプロデュースをしていると、息抜きで音楽をやれる場所が欲しくなってくるし、人に楽曲を提供して終わりということに寂しさも感じるようになってきて。それで趣味程度で作ったりはしていたんですけど、いろいろなタイミングが重なったこともありバンドとしての活動を本格的に始めてみようと。ただ、自分も人前に出るのは苦手だし、バンドメンバーもそれぞれの活動があって名前や顔を出すと支障が出ることもあるので、キャラクターを作ってアートワークだけでとりあえずバンドを走らせようということになったんです。当初は覆面バンドとか言われましたけど、べつに正体を隠すというコンセプトが明確にあったわけではないので、バレたらバレたでいいかなっていうぐらいで。でも結果的には余計な情報などを排除して最短距離でリスナーに音楽を届けることができたのはよかったと思います」
もしかしたら多くの人がNulbarichというバンドはその音楽性はもちろん、バンドとしての打ち出し方まで含め、緻密な戦略の基に活動を展開しているように感じていたかもしれない。しかし、実際にJQの根っこにある思いはとてもシンプルなものだという。
「Nulbarichをやる動機は、好きな友達とバンドを組んで好きな音楽をやりたい、ということだけなんです。今はビルボードのチャートを見てみてもバンドの曲はほとんど入ってこないような状況で、そんな中、時代に逆行するようにバンドをやっているというのは、単純に自分自身が楽しいからなんです。そういう時代の状況の中でNulbarichという自分たちが好きな場所を守るために知恵を働かせることはありますけど、音楽を作る上では常にフルスイングして100点を目指し続けているだけなんです」
そして、JQはそんな自分たちの音楽を受け入れてくれたリスナーに対しては感謝しかないと言う。
「昔からずっと自分の声にコンプレックスがあったんです。だから最初はプロデューサーという立場で音楽に携わっていたんだと思うし、いまだに自分はシンガーだと胸を張って言い切れないところがあって。だけどNulbarichがここまで来れたのは、繰り返しになりますが、僕らの音楽というものが真っすぐにリスナーに伝わっているからだと思うし、すごく愛をもらっているなと感じる。それに対して常にフレッシュな自分たちを提示していくことが今できる唯一の恩返しかなって。僕らは結局、音楽を作ることしかできないですから」
*こちらの記事は2019年4月20日発売の『SWITCH Vol.37 No.5 特集 福田組がつくる喜劇の奇跡』でもお楽しみ頂けます