変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第18回は底抜けのポジティブさを武器に戦うラッパー・あっこゴリラ
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
あっこゴリラが音楽の自由さを感じる30曲
とにかくポジティブなバイブスを放つラッパー・あっこゴリラ。そんな彼女に、音楽とはどこまでも自由で自分を開放してくれるものである、ということを教えてくれた楽曲をセレクト
INTERVIEW
私はレッドブルみたいな存在になりたい
ここ数年、日本におけるヒップホップを巡る状況は劇的に変化している。テレビ番組「フリースタイルダンジョン」が注目を集めたことで、ヒップホップを牽引してきたラッパーたちの存在がお茶の間にも認知され、さらに新しい世代のラッパーたちも台頭し始め、ヒップホップは日本のポップミュージックの最前に躍り出た。そうした状況の中で今もっとも注目すべきフィメール・ラッパーのひとりがあっこゴリラだ。
「自分は元々ドラマーだったという経歴もあって、ラップを始めた頃はイロモノ扱いされたりもしたし、いちいち周りからの声を過敏に気にし過ぎて、そのたびに傷ついたりもしていて。でもラップを始めて3、4年ぐらい経ち、今はそういう自分の出自も逆手にとって武器として使えるなと開き直れるようになった気がします」
そんな彼女が今に至るまでにラッパーとして歩んだ日々を振り返ってくれた。
「私はMCバトル出身みたいなふうに見られていますけど、べつにバトルが好きでやっていたわけじゃなくて。正直、私はヒップホップの世界では知名度もスキルも何もない状態からラップを始めて、でもなんとか上に這い上がりたいと思っていた時にKEN THE 390さんと偶然お会いして、バトルに出ることを勧められ、右も左もわからないままにバトルの世界に飛び込んだんです。今はバトルも浸透していますけど、当時は雰囲気もピリついてたし、暴力もありみたいな感じでしたね(笑)。バトルで名を上げる以外にも方法はあったと今ならわかるんですけど、私は本当に何も知らなかったし、ここで逃げ出したらもう一生ラッパーとは名乗れないんじゃないかと思い込んでいて」
やがてあっこゴリラの名はヒップホップ界の中でも認知されるようになり、様々なメディアにも取り上げられるようになっていく。
「言葉で説明するのがすごく難しいんだけど……ずっとヒップホップというものと向き合い続けてきたからこそ今があるのかなと思います。自分のテンションを上げて、自分は最高だ! と思える状況をいかに作り上げることができるかということを、自分に嘘をつかずリアルにやり抜いてきたというか。その結果、今現在のあっこゴリラとしてのスタンスやメッセージというものが生まれてきたのかもしれない」
2018年12月、あっこゴリラは満を持してフルアルバム『GRRRLISM』をリリースした。とびきりポップでカラフルなトラックとリリックに彩られた1枚は、ヒップホップという枠を超えたエンターテインメントであり、どの曲もポジティブなバイブスを放っている。
「私は昔からレッドブルみたいな存在になりたいとずっと思っているんです。レッドブルって気合い入れたい時に飲むとテンション上がるじゃないですか。最近はレッドブルにどんな原材料が使われているのかをひとつひとつチェックするような感覚でいろんな角度から聴き手のテンションを上げる—— “翼を授ける”ことができるような音を作るべく研究している段階に入ったかもしれない。あと、最近新たにできた夢はハッピーターンにもなりたいってこと。どんな人もハッピーになりたいと思うじゃないですか。それを音楽で後押しできたらなって」
とにかく音楽はポジティブでハッピーな表現であるべきという彼女の哲学の裏にはある思いがあった。そしてそれこそがあっこゴリラというアーティストの本質なのかもしれない。
「誰かの辛さや悲しみに寄り添い気持ちを慰めてくれるものとして音楽を捉えている人も世の中には多いと思うけど、私にとって音楽は現実逃避するためのツールじゃなくて、自分自身の現実をより良くし、自由にしてくれるもの。私はそういうふうに音楽を聴いてきたし、だからこそ自分もそういう音楽を作りたいんです」
*こちらの記事は2019年5月20日発売の『SWITCH Vol.37 No.6 特集 Beautiful World 平野歩夢[二十歳の地図]』でもお楽しみ頂けます