変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第22回は携帯片手に古着屋を巡るMega Shinnosuke
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
Mega Shinnosukeの雑食性を培った30曲
ストリーミングサービスを駆使し、時代や国籍、ジャンルを超えて好きな音を探しているMega Shinnosukeのアンテナに引っかかった楽曲たち
INTERVIEW
天職は自己表現
「音楽は特に好きじゃなかったです。CDを買ったこともないし、たくさん音楽を聴くようになったのは、高校の頃に知り合いにSpotifyなどのストリーミングサービスを勧められてから」
現在18歳のMega Shinnosukeはそう言い切る。そんな彼が音楽を作るようになったのは、高校2年の夏、文化祭でコピーバンドの手伝いに誘ってくれた先輩が校外で活動していたオリジナルバンドのライブを観に行ったことがきっかけだった。
「先輩に連れられてライブを観に行ったんですけど、そのバンドが誰かの真似をしているような感じでダサかったし、仲間同士で褒め合う身内ノリもイヤで、これなら自分のほうが良い曲を作れるんじゃないかと思ったんです。それでLogicという音楽制作ソフトで曲作りを始めました。Logicの中にDrummerというドラムパターンを作る機能があって、そのビートの雰囲気に合うような楽器を重ねて作っていきました」
そうして生まれたのが今年6月に発表した初の全国流通盤EP『HONNE』にも収録されている「O.W.A.」という曲だった。ファンキーなギターリフが印象的な楽曲だが、結果的にそうなっただけだと彼は言う。
「今もそうですが、僕は誰かの音楽を参考にすることがなくて、作っていくうちにこれは何かに似ているなと気づいていく感じなんです」
『HONNE』にはファンク、トラップ、シューゲイザーと時代もジャンルもバラバラな音楽的要素が取り入れられているが、彼はそれらを無意識のうちに選びとり、自らの楽曲に落とし込んでいるということになる。その反射神経と柔軟さこそが彼の音楽の魅力だ。
たくさんの音楽に親しんできたわけでも、音楽への憧れがあったわけでもないというMega Shinnosuke。彼は何故ミュージシャンとして活動していくことを選んだのだろうか。
「僕はずっと人と違う生き方をしたいと思っていて、高校1年の時に将来は何でもいいから社長になりたいと思ったんです。それで大学に行こうと思って勉強していたけど、ある時、大学に行く人なんてたくさんいるんだから、全然人と違う人生じゃないと気づいて。それで高校2年になると学校を休みまくって大阪や東京に行き、芸術系の専門学校を見学したり、そこで音楽業界の人たちと出会う機会にも恵まれた。ちょうどその頃に曲作りも始めていたので、将来は楽曲の職業作家になろうと思い、高校を辞めました。その後、『O.W.A.』のMVをYouTubeに上げたら反響があり、今に至ります」
Mega Shinnosukeは今年4月に上京し、本格的に活動を開始。しかし、彼の日常は音楽漬けというわけでもないという。
「下北沢や原宿の古着屋に行って、友達と渋谷をうろついて、家の近くの牛丼屋でメシを食う。そんな毎日です。あと、自分は携帯中毒なのでずーっと携帯の画面を見ているんです。要は暇なんですよね。暇だから動きまわって、常に何かを探している。そうやって日々いろんなことをインプットしているので、曲を作る時のアイデアに困ることはほとんどない」
さらに彼は続ける。
「音楽が自分のすべてだとは思ってないし、そもそも僕は何かにすがって生きていない。ただ、僕の天職は自己表現をすることなのかなという気はしていて。かつて社長になりたいと思ったのもその表れだったのかな。だから音楽とは今の自分に一番合った自己表現の手段なのかもしれない。僕の根本にあるのは、“自分らしく生きたい”という気持ちだけ。だからこそ曲を作る時には、Mega Shinnosukeが鳴らす意味のある音楽を作りたいと思うし、いつか僕という人間自体がひとつのエンターテインメントとして成立したらいいなと考えています」
*こちらの記事は2019年9月20日発売の『SWITCH Vol.37 No.10 特集 北村道子 SCIENCE FASHION』でもお楽しみ頂けます