変化し続ける音楽シーンという“荒野”に足を踏み入れ、新しい音楽を生み出そうとしている次世代のアーティストを紹介。第23回は“ポップ”と“らしさ”を追求するOmoinotake
PHOTOGRAPHY: SHINTO TAKESHI
TEXT: ITAKO JUNICHIRO
DNA MUSIC
Omoinotakeのパーソナリティを映す30曲
メンバーそれぞれが愛聴し続けている楽曲から、バンドの音楽性に影響を与えた楽曲まで、Omoinotakeというバンドのありのままの姿が伝わる楽曲たち
INTERVIEW
暑苦しい感情や切な過ぎる感情を滲ませたい
2012年に藤井レオ(Vo&Key)、福島智朗(Ba&Cho)、冨田洋之進(Dr&Cho)の3人で結成されたOmoinotake。ギターレスのピアノ・トリオバンドという編成の彼らのスタートは、一から自分たちの音楽性を探し始めることだったという。
「自分と冨田が専門学校に進学するために上京していて、ふたりでバンドやりたいねと話していて。その時、浪人してる藤井が上京してきたらピアノとボーカルを任せてスリーピースのバンドにしようと思ったんです。藤井はずっとドラムをやってたけど、ピアノも弾けるし、歌えるのはわかっていたので」(福島)
「誘われた時は戸惑いました。ピアノはやっていたけどクラシックを弾くぐらいだったし、昔から銀杏BOYZ などのパンクやメロコアが好きだったので、バンドにピアノがいるということ自体が想像できなかった」(藤井)
「ギターレスにこだわりがあったわけでもなくて、いい奴がいたら入ってもらえばいいかなというぐらいでしたし、結成当初はスタジオに入ってセッションしながら探り探り曲を作っていく感じでした」(冨田)
明確なビジョンのないままバンドを続けていく中、3人に決定的な影響を与えたのが、2015年にceroが発表したアルバム『Obscure Ride』だった。
「ライブハウスではタテノリのギターロックのバンドと対バンすることが多く、それと同じ方向性でやっても埋もれてしまうなと感じていた頃にceroと出会い、こういう音楽なら自分たちにもできるかもしれないと思ったんです」(藤井)
「ロバート・グラスパーを初めて聴いた時に、この感じをバンドでやれたらカッコいいだろうなと思っていて、そうしたらceroがその答えを具体的に提示してくれた」(冨田)
そこからOmoinotakeはそれぞれにブラックミュージックを掘り下げながら、ヨコノリのグルーヴを追求。同時にストリートライブを精力的に行うことで、さらに自分たちの目指すべき音楽性を探っていった。
「街を歩いている人たちの足を止めさせるには、音が聴こえて5秒が勝負。わずかな時間で曲の良さを伝えるにはどうしたらいいのか、すごく考えるようになりました」(福島)
自分たちの核にあるもの
そうして辿り着いたOmoinotakeのサウンドは、ブラックミュージックをベースにしながらも、キャッチーでポップなメロディが際立つものとなった。しかし、彼らの音楽の魅力はそうした表面的なものだけではないように感じる。
「今の僕らの音楽性はブラックミュージックからの影響を大きく受けたものですけど、元々銀杏BOYZが好きだった自分は今も間違いなくいて。そのことに意味がある気がする」(藤井)
「自分も元々は藤井のようにパンクやパワーポップが好きで、今のバンドの音楽性とは違っているけど、自分がずっと好きなものは大切にしたいと思うようになった。自分の音楽体験を思い返してみると、音楽で踊ったことよりも、音楽で泣いたことのほうが多い。音楽が生み出すエモーションを自分は大事にしたいんだなとあらためて気づいたんです」(福島)
「ノリやすいグルーヴという枠からはみ出る暑苦しい感情や切な過ぎる感情をOmoinotakeの音楽からは滲ませたい」(藤井)
「だからライブでも、踊って楽しかったというだけで終わるのではなく、身体は音に乗り揺れているんだけど“泣ける”という音楽を表現していきたいと思っています」(福島)
最新のリズムやグルーヴをセンスよく取り入れたお洒落なサウンド。Omoinotakeの音楽はそれだけのものではない。音を通して人間の感情を揺さぶり、何かを訴えかける、とても人間臭い音楽なのだと思う。
*こちらの記事は2019年12月20日発売の『SWITCH Vol.38 No.1 特集 佐内正史 無限の写真家』でもお楽しみ頂けます