本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第19回目は、那覇市中心部、沖縄最大の百貨店に店を構えるリブロリウボウブックセンター店。郷土本を担当する宮里さんとゆんたく(おしゃべり)すれば、沖縄ならではの本事情が見えてくる
那覇空港から都市モノレールの「ゆいレール」に乗って15分ほど。沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」のメロディが聞こえてきたら、県庁前駅到着の合図。初秋の沖縄はまだ暑く、ホームに降りるとむわっと南国の空気に包まれた。今回訪問したのはリブロリウボウブックセンター店。県の行政機関が集まる中心部であり、観光名所「国際通り」も近いからか、店内は地元の人や観光客で賑わっていた。その中で特徴的だったのは、「郷土本」と書かれた棚。ガイドブックから重厚な表紙の歴史本まで、沖縄関連の本だけがずらりと並ぶ。棚を担当する宮里さんに話を訊くと、土地や歴史と関わりの深い、沖縄の本事情が見えてきた。
――「郷土本」という棚があるんですね。他の地域ではあまり見かけません。
「沖縄ではどんなに小さな書店でも必ず郷土本のスペースがありますね。ないと違和感を覚えるくらいです。特に、沖縄独自の行事に関する本や基地問題についての本は問い合わせも多く、よく売れるので取り揃えています。そうした中で、うちでは毎年、県産本フェアもやっているんですよ」
――「県産本」とは?
「沖縄の出版社や地元の人たちが作った沖縄本のことです。地元の出版社がこんなに頑張っているんだよ、ということを知ってほしいという思いから、出版社の会『県産本ネットワーク』と当店前身の『文教図書』がフェアを始めました。最初は地元の人も知らなくて、『こんなにたくさんあるの?』という感じでしたが、今は認知されてきてフェアも毎回盛り上がっています。また、これとは別に『ブックパーリー』という沖縄全島を縦断した本屋のイベントも毎年秋頃、約2カ月間にわたって開催していて、参加店は100店以上、トークショーなどの関連イベントは50以上にもなります」
――出版社も、書店も、沖縄は本への取り組みに熱心なんですね。
「そうですね。読者の本に対する意識はとても高いです。理由としては、まず1つに基地問題などの“情報を得るため”というのが挙げられると思います。沖縄は主な新聞社が2社しかないこともあって、読者は様々な意見を本から得ようとします。様々な意見や政策に賛成するにも反対するにも、まず情報を得なければ、と」
――なるほど。それは沖縄ならではですね。
「また、“歴史を残していく”ために本が必要という考えがあるのも、本への意識が高い理由だと思います。売り場にいると、沖縄の歴史の本に対する問い合わせが多くて、そのまま店員と話し込んでしまう方もいるんです。『伝えていかないといけないよ』と沖縄戦の話をされて、私も話を聞いていて泣いてしまったこともあります。しかもそんなことが一度や二度ではない。店頭で土地の歴史について熱心に話し込むなんて、他ではあまりない光景ではないでしょうか」
<プロフィール>
宮里ゆり子(みやざとゆりこ)学生の頃、放課後は毎日のように本屋で立ち読みをしていたほどの読書好き。通い詰めた地元の球陽堂書房で働き始め、その後2004年にリブロに入社。管理が難しく最初は戸惑っていた郷土本も、今では担当して8年のベテランに
【今月の棚】
郷土本といっても、子ども向けの絵本から歴史本、写真集などジャンルは幅広いです。できてはなくなっていく地元の出版社や個人出版の本も多く、お客様に聞かれて調べながら覚えていく、という感じ。データで管理しきれない県産本の扱いは、記憶が頼りです
【語りたい3冊】
①『porte』(東洋企画)観光客にも地元の人にも人気な県産本です。印刷が本業の出版社が作っているので、写真の色へのこだわりが特長です
②『これだけは知っておきたい 琉球・沖縄のこと』新城俊昭(沖縄時事出版)一冊読めば沖縄のことがまるわかり。学校教材としても使われていますが、こういう勉強って、大人になった時の方がおもしろかったりしますよね
③『Okinawa Diary 2018』(東洋企画)新暦の横に旧暦や沖縄の行事が書いてあったり、ゆいレールの時刻表や料金なども載っています。一家に一冊あると便利
<店舗情報>
リブロ リウボウブックセンター店
沖縄県那覇市久茂地1-1-1 デパートリウボウ7F
10:00-20:30
(本稿は11月20日発売『SWITCH Vol.35 No.12』に掲載されたものです)