本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第20回は、千葉にオープンしたばかりの「16の小さな専門書店」、鈴木店長に話を訊いた。知らなかった本に出会える工夫がたくさん詰まったこの書店のこだわりと、今後の展望について
今年7月、栃木県小山市のある本屋が惜しまれつつ閉店した。読者を楽しませる棚の工夫でファンも多い本屋だっただけに残念な知らせだった。だが悲しみも束の間、そこに務めていた名店長・鈴木さんが、千葉で9月にオープンしたばかりの本屋の店長になった、との噂を聞きつけた。一体どんな本屋になったのか。さっそく千葉へ向かった。JR千葉駅前、9月にリニューアルオープンしたそごう千葉店のJUNNU館3階。エスカレーターを六角形のフロアの中心に据えて、放射線状にずらりと書棚が並ぶ。ジャンルごとに屋号を持ち「16の小さな専門書店」と名付けられてはいるが、店長は一人、鈴木さんだ。店の立ち上げのことから今後の展望まで、話を訊いた。
――書店員になった経緯を教えてください。
「18歳の頃、デート代を稼ぐために本屋でアルバイトを始めたんです(笑)。たまたま入った本屋のアルバイト募集の張り紙を見つけて。子どもの頃から本屋にはよく行っていたから、気軽に始めやすかったのかもしれません」
――昔から本がお好きだったんですね。
「ただ、若い頃は漫画しか読んでいませんでした。漫画家になりたいと思っていたこともあって。でも、漫画って絵が描けても話が作れないとだめなんです。20代では社会経験もあまりないので、話が作れない。だから、知識を補おうとノンフィクションや歴史の本を読むようになりました。それが結果的に今の仕事につながっています」
――この書店でも立ち上げ当初から選書はほとんど一人で担当されているとか。
「通常、書店の開店準備は3、4カ月でやるところ、約1カ月しかなかったので大変でした。選書以外にもやることはたくさんあって、“複数の専門書店”というコンセプトはもともとできていましたが、店内や什器のデザインにも図面の段階から携わりました。デザイナーに注文をして、棚の角度や平台を工夫し、表紙がよく見えるようにこだわっているんです」
――表紙に惹かれて、知らなかった本に出会うこともありますよね。
「そうなんです。本を手に取るきっかけになれば、と。あと、パネルやポップで作家の略歴や作品背景などを紹介するように意識しています。そういう情報を知らないと、面白さがわからない作品も多いから」
――定期的に開催されているイベントも、作品を知るきっかけになります。
「いまは海外コミックのイベントを予定しています。それも、一回だけでなく何度も開催したいと思っていて。海外コミックを紹介して読者を増やす発信地にしたい。海外文学などもそうですが、一定数のファンは必ずどこかにいるのに、その人たちが集まる場所がまだないジャンルってあるんです。そういった彷徨っている人たちが集まる拠点になっていけば嬉しいですね」
<プロフィール>
鈴木毅(すずきたけし)
栃木県小山市の進駸堂中久喜本店の店長を経て今年の9月より現職。取次による指定配本は一切受けず、すべての本を独自の選書で仕入れて売り場作りを行っている。趣味はフライフィッシング。釣り雑誌の連載で映画のコラムと挿絵も担当する
【今月の棚】
エドワード・ホッパーという画家の絵が装幀に使われている海外文学の本を集め、彼のプロフィールと一緒に紹介しています。こういう情報が作品を知るフックになればいいな、と思って。買う本はなくても何か面白いネタを掴んで帰ってもらえたら嬉しいです
【語りたい3冊】
①『塩素の味』作=バスティアン・ヴィヴェス 訳=原正人(小学館集英社プロダクション)
海外漫画を読んでみたいけど敷居が高い、と思っている人におすすめ
②『オリーヴ・キタリッジの生活』著=エリザベス・ストラウト 訳=小川高義(早川書房)
アメリカの港町に住む家族の物語。とあるシーンの描写が感動的に素晴らしく、そこだけでも読んだ価値があると思ったほど
③『火を熾す』著=ジャック・ロンドン 訳=柴田元幸(スイッチ・パブリッシング)
シンプルで台詞もなく、無駄が一切ない。人生の一冊です
<店舗情報>
16の小さな専門書店
千葉県千葉市中央区新町1001番地 そごう千葉店JUNNU3階
10:00-20:00
(本稿は12月20日発売『SWITCH Vol.36 No.1』に掲載されたものです)