本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。沖縄県最大の売り場面積と品揃えを誇るジュンク堂書店那覇店。膨大な蔵書数の中から“一冊”に出会ってもらう鍵は、お客様との距離を縮める接客にあり
南国調のカラフルなお土産や三線の奏でるBGMで一年中賑わう那覇市の観光の中心、国際通り。脇道を一本入り五分ほど歩くと、ビルの最上階から堂々と掲げられた緑のジュンク堂カラーの大きな垂れ幕が見えてくる。ビルの地下一階から地上三階まで重厚な書棚がずらりと並ぶここ、ジュンク堂書店那覇店は、県内一の広さと品揃えを誇る。沖縄には小規模な出版社も多く、また個人の自費出版も盛んで、他の地域では手に入りにくい沖縄関連本も多いが、そうした書籍も丁寧に取り揃えている。沖縄に暮らす地元の人たちからも観光客からも信頼の厚いこの書店の未来を担う新入社員の尾崎さんに話を訊いた。
--まずは、ここジュンク堂書店那覇店で働くことになった経緯から教えてください。
「昔から読書が好きでしたが、周りにはそういう友達があまりいなくて『読書ってこんなに面白いのに!』とその魅力をいろんな人に伝えたいと、書店員になることを目指しました。せっかくなら様々な本を大勢に紹介できるお店で働きたいと思い、沖縄で最も広く品揃えも豊富なジュンク堂書店を選んだんです」
--大型書店ですが、それぞれのフロアで書店員さんがお客さんと密接なやり取りをされている姿が印象的でした。
「売り場面積と品揃えが何よりも自慢ですが、接客にもこだわっていて、声出しや笑顔を大切にしています。本を探しているお客様には、積極的にお声がけするよう心掛けています。もちろん一人で選びたいという方もいらっしゃるのでタイミングが難しいのですが、なるべくコミュニケーションをとりたいと思っていて」
--先程もお客様と一緒に『あれでもない、これでもない』と親身になって本を探されている尾崎さんの姿をお見かけしました。
「特定の本ではなく、なんとなくのイメージを元に本を探されていたので、そのイメージに合った本を、お客様のお話をお聞きしながら一緒に探していました。検索機やネットショッピングではできない、リアル書店ならではの本の選び方ですよね。特にご年配の方はお話しするのが好きな方が多いので、つい世間話のようになってしまうことも多くて(笑)」
--お店の特徴である丁寧な接客が、お客様と書店員の距離を縮めているんですね。
「そうですね。お客様だけではなくて、地元の出版社とも親密でいい関係を築いています。例えば雑誌の最新号が出るたびに、開店前の九時に台車を引いて『おはようございます、持ってきました!』と直接お持ちいただいて、棚作りまで手伝ってくださる出版社の方もいます。すごく気持ちがよくて、頑張ってたくさん売りたいという気持ちになるんです。そうした出版社や本の熱量をお客様に伝えられる接客や棚作りを目指していきたいです」
<プロフィール>
尾崎夏美(おざきなつみ)生まれも育ちも沖縄のうちなーんちゅ。趣味は映画鑑賞。入社一年目で雑誌担当。文芸好きで入社まで雑誌はあまり読まなかったというが、SNSの口コミや芸能ニュースなどで流行や話題のチェックを欠かさず、売り場を盛り上げている
【今月の棚】
観光客向けのガイド本を集めた別の売り場もありますが、ここでは主に沖縄から発進する文化や暮らしを取り上げた情報誌を置いています。沖縄に住んでいる人も観光で沖縄に来た人も興味がある情報なので、幅広い層のお客様を棚の前で見かけます
【語りたい3冊】
①『おきなわいちば』(光文堂コミュニケーションズ)
たくさんある沖縄の情報誌の中でも、沖縄に実際に住んでいる人の暮らしがよくわかるディープな内容です
②『星の王子様』著=サン=テグジュペリ 訳=奥本大三郎(白泉社)
名作なので絵本から文庫まで様々な種類があります。当店も10種類程扱っていますが、絵本は要所がぎゅっと詰め込まれていて読みやすいです
③『蹴りたい背中』著=綿矢りさ(河出書房新社)
書店員になるきっかけになったとも言える、私の大事な一冊。日本語の表現の美しさに感動しました
<店舗情報>
ジュンク堂書店 那覇店
沖縄県那覇市牧志1-19-29 D-naha B1~3F
営業時間 月~土 10:00-22:00
(本稿は2月20日発売『SWITCH Vol.36 No.3』に掲載されたものです)