本棚と書店員。二つの「本屋のかお」を通して、これからの街の本屋を考える――。連載第23回目は、広島を拠点に書店事業を興し100年以上の廣文館を訪ねた。原爆もカープの優勝も街と一緒に経験してきた、広島の人々に愛される老舗書店だ
広島の「市民の足」として戦前から走り続ける路面電車、広島電鉄。歴史を感じさせるレトロな車両に揺られ車窓からの景色を眺めれば、地元民になったような気分が味わえる。広島駅から市内を走ること約10分。八丁堀駅で降りると、広島金座街商店街の入り口が見える。小雨の降る夕方、傘のいらない屋根付きアーケードの商店街は、買い物袋を抱えた主婦や学校帰りの学生で賑わっていた。その一角に店を構える老舗書店、廣文館金座街本店。帰り道に立ち寄る人々で活気付く店内で、売り場を担当する久枝さんに話を訊いた。
――まずは、お店の歴史から教えてください。
「会社は1915(大正4)年創業、今年で103年目になります。創業当時から広島を拠点としている書店で、現在は県内に14店舗、その他に岡山、東京にも進出しています。市内中心部にあるこの金座街本店は、1945年の原爆投下で一度倒壊してしまいましたが、戦後建て直し、地下1階から地上3階まで4フロアの売り場を有する今のお店の原型になりました」
――どんなお客様がいらっしゃいますか。
「商店街に買い物に来る地元のお客様はもちろんですが、観光客、外国人の方も多いです。原爆ドームや平和記念公園も近いので、ご覧になられた後に資料や関連書籍を探しにいらしたり、おりづる再生紙(平和記念公園に世界中から届く折り鶴をリサイクルして作られた紙)を利用した栞やハガキなどを買っていかれます」
――本以外の商品も扱っているんですね。
「書籍だけでなく、関連商品も扱う複合書店です。特に広島カープをはじめ、地元のスポーツチームを応援しているので、グッズは品揃えも豊富です」
――漫画家や作家直筆のカープ優勝記念色紙などがたくさん展示してあり、カープカラーの真っ赤な売り場が目立っています。
「カープグッズを売っているお店は書店でなくてもたくさんあるので、本屋だからこそできるアプローチの仕方で盛り上げています。作家や野球雑誌の版元との繋がりがあるからこそできる展示なんです」
――あの売り場目当てで来店するお客様もいらっしゃるのでは。
「はい。ただ、もともと本屋なのでやはり本を大切にしたい。扱う商品は読書との繋がりを常に意識しています。例えばカープグッズの場合、もともと熱心なファンの方がカープの本や雑誌を求めて定期的にお店に足を運んでくださっていました。そこで、グッズや観戦チケットを一緒に買って、そのまま応援に行ってもらえたらと考え、本をベースに他の商品を仕入れたり、チケットの販売もするようになりました。他にも、読者と作家の接点を作るためイベントを定期的に開催するなど、読書をきっかけに世界が広がっていく体験をお客様に提供できるような書店を目指しています」
<プロフィール>
久枝哲也(ひさえだてつや)
広島市出身。駅前の店舗でアルバイトから始め、現在入社6年目。売り場では店頭の話題書の棚を任され、日々新聞などメディアのチェックを欠かさない。好きな作家は伊坂幸太郎。好きな野球チームはもちろん広島カープ
【今月の棚】
店頭の棚では新聞などメディアで取り上げられた書籍を中心に、話題の本を並べています。広島では全国紙に対して地元紙のシェアが大きいそうで、それを読んで買いにくるお客様も多いです。お客様が探さずに見つけられるように、店頭で目立たせています
【語りたい3冊】
①『カウンターの向こうの8月6日』著=冨江洋次郎(光文社)
広島市内でバーを経営していた被爆三世の筆者。毎月お店に被爆者を招いて開催していた「証言の会」をまとめた一冊
②『ワカコ酒(1)』著=新久千映(徳間書店)
広島出身の漫画家による居酒屋一人酒漫画。仕事帰りに一杯飲みたくなること請け合い
③『HIROSHIMA ATHLETE MAGAZINE』(サンフィールド)
全国誌には載らないコアな情報が満載の地元スポーツ雑誌です。地元だからこそ取材できる細かい情報を求めて、東京から取り寄せるお客様もいるほど
<店舗情報>
廣文館 金座街本店
広島県広島市中区本通1-11
営業時間 9:00~22:00
(本稿は4月20日発売『SWITCH Vol.36 No.5』に掲載されたものです)