映画『キリエのうた』
SPECIAL INTERVIEW 
岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

映画『キリエのうた』 SPECIAL INTERVIEW 岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

岩井俊二監督の新作『キリエのうた』が10月13日に公開される。岩井俊二自ら“音楽映画”と位置付ける本作、主人公の路上ミュージシャン・キリエが辿った13年の物語が、彼女の圧倒的な「歌」とともに描かれていく。
やはり音楽を作品の中心に据えたかつての『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』と同様、劇中のスコアおよび主題歌を手掛けるのは音楽家/音楽プロデューサーの小林武史。そしてキリエ役には本作が映画初主演となるアイナ・ジ・エンドを抜擢。劇中でキリエの歌う楽曲も彼女の書き下ろしによるものが多数存在する。
岩井俊二×小林武史×アイナ・ジ・エンド、この新たな組み合わせは本作においてどのような化学反応を起こしていったのか、音楽制作という切り口から『キリエのうた』を紐解いていくロングインタビュー。

PHOTOGRAPHY:TADA
TEXT:SUGAWARA GO

22年ぶりの“音楽映画”

—— 本作『キリエのうた』は“音楽映画”と銘打たれていますが、それぞれが考える音楽映画とはどんなものなのか、まずはそこから話を聞かせてください。

岩井俊二 明確に定義付けしているわけではないですが、ミュージカル映画とも、普通の映画とも違うもので、僕自身としては映画を作るという行為と同じか、むしろそれ以上の熱量で音楽のトラックに向き合っていく作品であることは確かです。単に映画の中に音楽が出てくるということじゃなくて、最初から「音楽映画を作るんだ」という構えで制作に入って、音楽を大事に撮っていく。今回もそうしたアプローチでした。以前ある人から「また音楽映画をつくらないの?」と訊かれたことがあって、その時に、ああ、そういう捉え方があるのかと。「そうか、俺は音楽映画を作れる監督なんだ」みたいな(笑)、そんな自覚が芽生えた時があって、それ以降自分の創作のいちジャンルとして音楽映画という位置付けが出来て。それは僕もわくわくするし、コンスタントにやれたらいいなとも思っているんです。

小林武史 実際世の中には音楽がフィーチャリングされた映画っていろいろあるけれど、岩井監督と僕でつくった「音楽映画」は、そのどれにも当てはまらないように思います。といっても実際に岩井監督との仕事で音楽映画と呼べるものは『スワロウテイル』(1996)と『リリイ・シュシュのすべて』(2001)の2作しかなくて、しかもどちらも20年以上前の作品なんですけど(笑)。ただ今回の作品も含めて振り返ってみると、作品の中心に歌い手がいて、その歌い手が物語を牽引していく、原動力になっていくところは共通しているんですけど、その人物の在り方も、物語を引っ張っていくかたちも全部違っていて、何かの定型があるわけではないんです。映画を作りながら、並走する形で音楽も作っていくんだけれど、そこで自然と何かが生まれてくるのを待っていたような感覚がある。まるでセッションしているみたいな感覚の中からクリエイティブが生まれてきている、これはなかなか稀有な映画づくりなんじゃないかと思いますね。ただ正直な話をすると、今言ったように音楽映画としての定型の作り方があるわけではないから、そもそも僕がここに加わる必要があるのかな、と最初は思っていたんです。最初はなかなかフォーカスが合わなかったというか。それは僕のピントがずれていたんだと思うんだけれど(笑)。でも撮影を進めていくうちにどんどん岩井くんのボルテージが上がってくるのが伝わってきて、それがなんなのかと言ったら、やっぱりアイナ・ジ・エンドという人の才能ですよね。それに岩井くんはどんどんのめり込んでいったし、結果的に僕も引きずり込まれていったという。

—— そんな岩井さんと小林さんの“音楽映画”にアイナさんはどんな思いで臨んでいったのでしょうか。

アイナ・ジ・エンド ……とにかく必死ですね。ただ、必死といっても余裕がまったくないわけではなくて。撮影期間中は本当に余裕がなくなりそうな時もあったんですけど、そんな時は一度目を閉じるんです。何も見えない状態で大きく深呼吸をして、目を開けると岩井さんが目の前にいて「ああ、これは岩井さんの現場なんだ、夢じゃないんだ」って。そうすると、どんなに思い詰めていても嬉しさが勝つというか、前を向くことができる。常に「嬉しい」が先にあったので、必死の中にも楽しさがありました。

—— アイナさんは『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』は観ていたんですか。

アイナ 初めて観た岩井さんの作品は『PiCNiC』(1996)で、それで大きな衝撃を受けて、そこから『スワロウテイル』や『リリイ・シュシュのすべて』、他にもいろんな作品を観ていきました。小林さんは、『世界から猫が消えたなら』(2016)という映画の主題歌で、HARUHIさんの歌う「ひずみ」という曲で初めて小林武史さんという存在を知ったんです。私はその曲が本当に大好きで。だから、自分は完全にお二人の作品を観ている側、聴いている側の人間だったので、まさか同じ空間で一緒にものづくりをさせていただけるなんて思ってもいなかったです。今も不思議ですね。

—— 今回は『キリエのうた』の音楽に焦点を当ててお話をお聞きしたいのですが、まずは路上ミュージシャンであるキリエが劇中で歌う楽曲について、これらはどのように作られていったのでしょうか。

映画『キリエのうた』 SPECIAL INTERVIEW 岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

岩井 アイナさんが参加してくれることが決まったものの、スケジュールの関係上、その3カ月後にはもう撮り始めなければならなかったんです。だから肝心の音楽制作に充てられる時間があまりなくて。そんな中でもアイナさんが何曲かデモを作ってくれたので、ひとまずはそのデモでどうにか乗り切ろうと。まずは昨年の2月から5月まで撮って、その後インターバルを挟んで11月にもう一回、後半の野外フェスのシーンなどを撮っていきました。その間にアイナさんも更に曲を作り足して……みたいな感じで。振り返ってみると結構な綱渡り状態でしたね(笑)。とにかくあらゆることがデタラメなくらいタイトなスケジュールで行われていったので、アイナさんは相当キツかったと思います。もちろんBiSHもありましたし。というかそもそもBiSHありきで、その上にこの映画が乗っかっていく形になってしまったので、本当に大変だったと思います。

—— アイナさんはこれまでソロ作品もリリースされてきて、自身で作詞作曲も手掛けていますが、アイナ・ジ・エンドとしての楽曲を作るのと今回の曲作りは感覚が違うものでしたか。

アイナ 全然違いますね。言葉ひとつ取っても、たとえば“楽しい”という言葉はアイナ・ジ・エンドとしてはあまり使わないというか、そうした気持ちを表すなら「駆け抜けよう」とか別の言葉で表現することを心掛けてきました。でもキリエは日常生活で言葉を喋らない……それこそ小学生の頃から人とほとんど喋れなくなっているので、歌においても複雑な言葉で自分の気持ちを表現することはしないんじゃないかと思ったんです。「楽しい」とか「悲しい」とか、シンプルな言葉でしか表現できないんじゃないかなって。メロディもサビでは「私には歌しかないんだ」って気持ちを思い切り乗せるためにほぼシャウトだったりして。アイナ・ジ・エンドではあまりそういう書き方はしないので、印象も結構違うと思います。

—— 曲を作る上でも「キリエ」として向き合っていた。

アイナ でも一方では私自身もやっぱり歌しかないという思いがずっとあって。歌がなくなったら誰が私を愛してくれるんだろう、みたいな気持ちも常に抱えているので、少し似ているところがあるというか。キリエとして書くんですけど、そこにはアイナ・ジ・エンドもすごく入っている感覚が正直あります。全く別というわけではなかったと思います。

“本物”の演奏シーンへのこだわり

—— 小林さんの音楽制作はどのような経緯で進んでいったのでしょうか。

小林 僕は最初に話したように、本当にこの作品を僕がやったほうがいいのかなかなか確信が持てなくて……かといって岩井くんも弁舌鮮やかに僕を説得してくれるわけではないから。

岩井 (笑)

小林 それでエンジンがかかるまで少し時間がかかったんです。

岩井 小林さんも他の仕事がいろいろ入っていたから、なかなかタイミングが合わず。

小林 最初のうちは僕もちょっと思わせぶりな態度をしていたかもしれない(笑)。でも制作が進んでいく中、僕のほうでも台本を読み込んでいって、主人公であるキリエの生き方—— 本当に壮絶な体験を経て、風に舞い散る木の葉のような彼女の生き方を、今の時代の様々な出来事とその時代を生きる人々の姿に重ねていって。そして、一人で生きてきたキリエが音楽を通して人と出会い、仲間と出会い、共に立ち上がっていく時に歌うのはこんな歌なんじゃないかと、まず僕のほうで書いてみたんです。そこには、BiSHが解散してこれから新たな場所に向かっていくアイナ・ジ・エンドの姿もまた重なっていて。それで、本当はYEN TOWN BANDの時に僕と岩井くんとCharaとでやったように、それぞれが思う詞を書いて最終的に僕がまとめるという形を今回も提案したんだけど、いざ書いてみたら最後まで書き切れてしまって。それでとりあえず二人に見せたら「これはなんか直しづらいですよね……」みたいな反応で(笑)。

岩井 「三人で書こうよ」と小林さんに言われて、それで行ってみたらもう出来上がっていて。これはもう、ちょっと直しようがないというか、ここに全部あるし……という(笑)。

アイナ (笑)

—— それが本作の主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」ですね。

映画『キリエのうた』 SPECIAL INTERVIEW 岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

小林 そう。アイナに曲を書くのは僕にとっても今回が初めてだけれど、これまでの経験上、こういう時は一発で決められるのが一番いいと思っていたし、僕自身手応えはありました。実際、やっていくうちに細かいアレンジのフォーカスもビシッと合ってきて。ただ実際の撮影に向けてはそこから演者、ミュージシャンを選んでいくわけですけど、彼らは同時に役者としてカメラの前に立たなくてはいけないという縛りがあった。というのは、よくある映画の音楽シーンの「明らかな当て振り」というのを岩井くんがすごく嫌がっていて。

岩井 今回、音は基本的に全部現場のトラックを使うという決め事が自分の中にあったんです。その場のリアルな音をそのまま録音して使う。当て振りじゃなくどのシーンも本人が歌っていて、お芝居のトラックと同じ線上に音楽のトラックも置くということをやってみたかった。その思いは最初から明確にあったんです。むしろこれをやりたかったと言っても過言ではないくらい(笑)。

小林 だから役者もミュージシャンとして演奏しなければならないんだけど、アイナはもちろん、(村上)虹郎くんをはじめバンドのみんなも本当にたいしたものでね。ある程度はやってくれるだろうと思ってたんだけど、こちらの想像以上でした。本当にみんなものすごく練習してきてくれて。

—— 最終的には岩井さんの狙いどおりの仕上がりになったのですか。

岩井 そうですね。完璧とまでは言えないところもありますが、仕上がりは満足しています。今回その点にこだわった理由をもう少し話すと、映画づくりにおいては、映画サイドが音楽トラックをアンタッチャブルなものだと思い込んでいるふしがあるんですよね。そのせいで演奏シーンになると急に……

小林 音が綺麗になっちゃうんだよね。どこか取ってつけたような。

岩井 そうなんです。演奏シーンになると明らかにそれまでとは違う音像でポーンと入ってくるせいで、前後のシーンとの繋がりに違和感を覚えることってないですか? あれ、キツいよなあとずっと思っていたんです。演奏が空振りに見えて全然熱くなれない。突如マスタリング音源がやってきた、みたいな。

小林 そう(笑)。それで、劇中の屋外フェスのシーンも最初は僕のスタジオのエンジニアチームでミックスする話になっていたんだけど、岩井くんのほうで映画的な視点で音を考えて、「こんな感じだと思う」というミックスが送られてきたんですね。いわゆる“岩井ミックス”なんだけど、それを絵と合わせてみたら「うん、これだよね!」ということになって。でもそれを自分でやるのは決して簡単なことじゃないし、岩井くんも相当がんばったんだと思う。

岩井 細かいことを言うと、劇中の足音まで自分で入れたりしています。

小林 自分で足音立てて?

岩井 さすがにここまでくると自分でもどうかと思いますけど(笑)、普通の足音では気に入らないんですよ。こんなはずないじゃん、と思ってしまって。そこで色々な音を重ねて作っていくんです。

アイナ すごい……。

岩井 「俺、一体何をやってるんだろう」って思うレベルで。でも映画を観ていたらまったく気にならないと思います。普通に同録でたまたま入っていた音だろうな、と感じられるところが一番重要なポイントなので。

小林 なるほどね。

岩井 結局、音ってそうなんですよ。完成して0点なんです。お客さんにとって“違和感がない”というところで終わり。その、決して褒められることはない美学に莫大な時間を投じているみたいなところがある(笑)。実際今日もその作業をやっていました。本当に最後のところですけど。

アイナ・ジ・エンドの発見

映画『キリエのうた』 SPECIAL INTERVIEW 岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

—— アイナさんは小林さん、岩井さんとのクリエイティブを今どのように感じていますか。

アイナ 最近(8月上旬)はほぼ毎日小林さんとスタジオに入っていて。

小林 実はアルバムを作っているんです。“Kyrie”としての。歌入れももう始まっていて。

アイナ 作業も結構進んできているんですけど、私が今まで経験したアルバム制作だと、この時期ってすごくピリピリするものなんです。いつも「世の中の人をびっくりさせたい」って思いながら作っているから、どうすればいいのか必死で考えて。でも小林さんとの音楽制作は、「これ、こうしたらもっと面白くなるかも」「これはこんな歌い方したいな。もう一回歌い直していいですか?」みたいに、とにかくいい作品にしたいという気持ちしかない。聴く人を驚かせたいみたいな気持ちがあまりないというか。きっとすごくピュアな思い……音楽が大好き、歌が大好き、そんな思いだけでやれている感覚なんですね。こんなふうに思わせてくれた方は、小林さんが初めてでした。そういうものづくりが今できていることが、とても嬉しいです。岩井さんに関しては、ものすごく年下の自分が言うのもなんですけど、めちゃくちゃピュアな感性を持っている方なんだなと思っていて。そうじゃないとこんな『キリエのうた』なんて真っ直ぐな映画は作れないと思う。観た人もみんな思うんじゃないんですか、岩井俊二さんというのはものすごく心が綺麗な人なんだろうな、って。

岩井 (苦笑)

アイナ 私にはそう思えてしまって。作品に対する熱量にしても、私の音楽の受け取り方にしても、なんだか自分を真っ直ぐにさせてくれる方で、私は勝手に東京のお父さんだと思っています(笑)。別に叱咤激励されるわけじゃないのに、言葉を交わさなくても自分の心からどんどん棘がなくなって、丸くなっていく感覚があるんです。

映画『キリエのうた』 SPECIAL INTERVIEW 岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

—— 逆に二人から見たアイナ・ジ・エンドというアーティストについてお聞かせください。岩井さんにとっては、この映画のきっかけといってもいい存在だと思いますが。

岩井 詳しく言うと、最初はとある飲料水のCMソングで彼女の声を耳にしたんです。

—— A_o(ROTH BART BARONとのユニット)ですね。

岩井 はい。それで、その力強いボーカルがすごく印象に残って。実はそのROTH BART BARON / 三船雅也さんが僕の事務所で働いていたスタッフの同級生だったんです。それで、コロナ禍の中ROTH BART BARONのライブが行われて、僕は仕事で行けなかったのですが、オンラインのリンクを送っていただいたので、それを流して横目で見ながら作業をしていたんです。ちょうど『キリエのうた』の台本を書いている最中だったと思うんですけど。そのうちにアイナさんがステージに出てきて、そこからはもう食い入るように見てしまった。「なんだこの子は!?」と。とりわけアイナさんの手の動き、指の動きに魅了されてしまって。

アイナ 手の動き(笑)。

岩井 もちろん歌の凄さはそれ以前からわかってはいたんですけど。それでそのライブを見て「一体この子は何を持っている子なんだろう」と。ただ歌が上手いだけじゃない何かを持っていそうだと直感的に感じたんです。それと同時に、今自分が書いている台本の主人公にピッタリの姿形と声、さらに他にもいろいろなものを持っているなと思い、彼女のことを調べ始めてBiSHを知ったんです(笑)。さらにその流れで聴いたソロアルバムに本当に衝撃を受けました。全曲自身で書かれていて、それがBiSHでやっているのとはまた異質のもので、こんな曲も書ける人なのかと。本人にも言いましたが、僕にとってはかつてクラムボンの原田郁子さんのソロアルバムを聴いた時以来の衝撃で。それで、「金木犀」という歌は “長所のない私です”という歌い出しで始まるんですけど、それを僕は“住所のない私です”と聞き違えて、「え? 既にもうこの物語を歌にしてるのか?」と思ってしまった(笑)(※主人公キリエは住所不定の路上ミュージシャン)。とにかくものすごい人を見つけたと思い、アイナさんのスケジュールを問い合わせてみたところ、ぜひやってみたいという返事が来た。もう鳥肌が立つくらいぞくぞくして、その思いをすぐに小林さんに伝えたはずなんです。「とにかくすごい子がいる!」「この子で行きたいんだ」って話を一生懸命した覚えがありますね(笑)。

—— 俳優が本業ではないアイナさんを俳優として起用することについても、迷いはありませんでしたか。

岩井 BiSHではアイナさんが振り付けを全部担当しているというので、そこに注目して見ていくと、ちょっと振り付けの専門家でも思いつかないような動きというか、解像度の高さを僕は感じたんです。動きに対する感度の高さとも言える。これは普通にお芝居をさせても十分僕の座標の中に入ってくるなという感じがしたので、絶対に心配はいらないと思った。身体の動きを自分で自覚できているというか、無意識じゃないところで全部繋げて動くことができている、それは言葉にしてもメロディにしてもダンスにしても、全部が繋がってひとつの世界になっているというか。そしてまだまだ伸び代があるという、ちょっと大変な才能に出会ってしまったなと。だからそのキャリアの邪魔だけはしちゃいけないなと思っていました。あの映画があったせいで……なんてことになったら大変だから。

アイナ そんなこと絶対にないです(笑)。

小林 いや、ものすごい熱弁だね。こんな応援団いないよ?

アイナ 応援団(笑)。

—— 小林さんとアイナさんの出会いは?

小林 僕ははっきりとは覚えていないんだけれど、どこかで彼女の歌を耳にして、凄い声を持った子だなという認識はありました。岩井くんが最初に感じたような「ピカッ!」っていう閃きはなかったかもしれないけど(笑)。でも、『スワロウテイル』におけるChara、『リリイ・シュシュのすべて』におけるSalyuという存在とどこか通ずるセンスを感じていたし、さらにこの先もっともっと成長していくだろうなとも思っていて。まさに今レコーディングスタジオに入ってアルバムを作っていく中で、彼女のその力にすごく引っ張られているのを実感しています。彼女が投げかけてくるものが、こちらが思う以上に奥行きがあったり広がりがあったりということに気づくことが多々あって。映画自体はほぼ完成していて、このアルバムはそこからスピンアウトするような形なんだけど、YEN TOWN BANDもLily Chou-Chouもそうした流れで生まれていったもの。本当に幸運なことに、20年経ってもあのアルバムを本当にいいと言ってくれる人がこの日本に限らず今も大勢いるんですね。そういう意味では今回の作品もアイナ・ジ・エンドという才能をもってして、時代も国も超えていくような……なんだか新たな人生に踏み出すアイナに向けた結婚式のはなむけの言葉みたいになっちゃってるけど(笑)。

アイナ (笑)

小林 この『キリエのうた』という映画や、今僕らが作っているアルバムが、なんていうのかな、本当にひとつの“しるし”というか、そういうものにならなければいけないと思っています。岩井くんと僕がやったこれまでの音楽映画は幸運にもそうしたものになっていったわけで。それから20年以上経って、今こうしてまた岩井くんと僕とで、さらにアイナ・ジ・エンドという存在がそこにいて僕らを引っ張ってくれている。お互い歳も取ったけど、こんなふうにいいことがあるんだね、なんて岩井くんと飲みながらしみじみ話したりしてね(笑)。本当に幸福な作品になったと思います。

映画『キリエのうた』 SPECIAL INTERVIEW 岩井俊二+小林武史+アイナ・ジ・エンド

*9/20発売の「SWITCH」では、アイナ・ジ・エンド、松村北斗、岩井俊二監督それぞれの撮り下ろしポートレイトおよびソロインタビューを12ページにわたり掲載。こちらも併せてお楽しみください。
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映画『キリエのうた』オフィシャルカット
©︎2023 Kyrie Film Band
『キリエのうた』
原作・脚本・監督:岩井俊二 音楽:小林武史
出演:アイナ・ジ・エンド、松村北斗、黒木華/広瀬すず
制作:ロックウェルアイズ 配給:東映
10月13日(金)公開
©︎2023 Kyrie Film Band

イベント情報

円都LIVE

本作の公開を記念して、10/21(土)にYEN TOWN BAND、Lily Chou-Chou、Kyrieが出演する一夜限りのスペシャルライブ「円都LIVE」が開催される。
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