【柴田元幸からの回答公開】WEB版 MONKEY vol.20刊行記念イベント Q&A篇

コロナウイルスの感染拡大予防のため、初のWEB上での開催となった『MONKEY vol.20 探偵の一ダース』刊行記念トークイベント。その公開を記念して4月24日から5月1日までの期間、「柴田元幸への質問」をウェブページ上で募集しました。ここでは寄せられたものの中から、27の質問と柴田元幸からの回答をご紹介します!

*頂いた質問は掲載の都合上、編集を加えております。あらかじめご了承ください。


質問1

Q. 柴田先生の万年筆へのこだわりを教えてください。
(山口県/50代/女性)

柴田
 使っていて気持ちのよい万年筆が何本もあり、どれを使ったらいいか迷います。プラチナ、モンブラン、ペリカン、セイラー、パーカーシェーファー……。ページごとにペンを変えたりして、なんだか馬鹿みたいです。


質問2

Q. どんな名刺をつくられたのか、見せて頂けませんか。
(群馬県/40代/女性)

 ごく普通に、「編集長 柴田元幸」とあり、スイッチ・パブリッシングの住所、ウェブサイトのURL、メールアドレスがあって最後にMONKEYのロゴ。


質問3

Q. 朗読が一人一人に届く効能に付いてどういった感慨をお持ちでしょうか?
(埼玉県/40代/女性)

 自分がやったことで人が元気になってくれるのであればとにかく嬉しいです。


質問4

Q. 英語で本を読もうとしても、根気が続きません。なにかコツみたいなものはありませんか?
(東京都/30代/男性)

 わからない部分がたまっていくと、だんだんエントロピーが増加し、放棄に至ってしまうので、何ページに一回か、「このページは徹底的に理解する」と決めて、辞書をみっちりひきながら読む……というのをくり返すのはどうでしょうか。あとはまあ何と言っても、自分が興味の持てる内容の本を選ぶことでしょうか。


質問5

Q. 外出できない日々が続いていますが、柴田さんはご自宅で何をされていますか? 私は運動不足解消のために踊ったりしていますが、鏡で踊っている自分の姿を見ると、下手さのあまり嫌気がさしてしまいます。
(東京都/20代/女性)

 お腹が膨らんできて、座っていると机にぶつかって邪魔です。「コロナ太り」解消のために速足散歩をはじめました。踊りは、できないです。


質問6

Q. 近隣の図書館が軒並み閉館し、本屋に行くこともできず、本不足に喘ぐミルハウザリアンです。そのミルハウザー作品のほとんどを訳しておられる柴田さんですが、MONKEY 18号でも紹介されていた長編「モルフェウスの国から」を訳す予定はおありですか? 
(福岡県/20代/女性)

 モルフェウスですか……(絶句)。まず、もう一度あの本をきちんと読み直したいという気持ちはあります。20年くらい前に読んだときの知識と英語力では、ほとんど歯が立たなかったので。ミルハウザー次の短篇集、7月刊行予定です。


質問7

Q.人間の歴史が進むにつれて、古典や近代の作品との時間的な距離がどんどん開いていきます。当時の日常生活の緻密な表現がなぞ解きに直接かかわっている作品ですと、例えば今の小学生にとってはスムーズに想像できない場面も多々あると思うのです。もし、柴田先生が今の小学生向けに「シャーロック・ホームズ」を訳すとしたら、どんな風になさいますか?ホームズについて、大人向けと違うバージョンでなさってみたい試みなど、教えていただけたらうれしいです。
(神奈川県/50代/女性)

 「とにかく原文に忠実に」という姿勢でずっとやってきたので、読者のためにカスタマイズするという作業はちょっと想像もつきません。どうしてもやることになったら、たぶん、普通に訳して、「こことここを小学生向けに表現直してください」と編集サイドから提案してもらう(場合によっては代案を出してもらう)とかすると思います。でも、作品を部分修正して、いいことあるわけないですよね……やっぱり僕には無理だと思います。


質問8

Q. 高校生の頃学校の図書館で柴田先生の翻訳した鍵のかかった部屋を読んで、そこから柴田さんの翻訳された本をたくさん読んでいました。私にとって柴田さんは「文学的アイドル」です(笑)。柴田先生にとって16歳の頃の「文学的アイドル」はどなたですか? いつか柴田先生に英語で書いている小説を添削してもらいたいです!
(paradise/40代/女性)

 いまより少しは多感だったと思える16歳のころに何の文学にものめり込んでいなかったのがとても残念です。小説頑張ってください。ZOOM朗読会、次は5月23日(土)午後2時からやります。


質問9

Q. 昨年の「読んでいいとも! ガイブンの輪」で朗読をされた、ミルハウザーの米国でも活字になっていない四角関係の短編を読みたいのですが、掲載予定はあるのでしょうか?
(東京都/—— /男性)

 ははは。あれは本人が「読み直したら、これを読むのは無理じゃないかと思った」みたいなことを言ってきたので、ひとまず遠慮しています。僕は好きですけど。


質問10

Q. 今の状況を「なんだか出来の悪いSF小説のような日々」と表現されていたことに激しく共感しました。こういった状況下で柴田さんがオススメするSF小説をお教えください。
(東京都/20代/男性)

 すぐ思いつくのはフィリップ・K・ディック(特に『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』と『ユービック』)とレイ・ブラッドベリの『華氏451度』です。Vandana Singhというインド系アメリカ人物理学者の書いた 『Ambiguity Machines and Other Stories』という短篇集の表題作がとても面白かったので、そのうち訳したいと思っています。


質問11

Q. 私は翻訳家を志す、高校2年生です。エドワード・ゴーリーの絵本から柴田先生の翻訳を知り、以来先生の訳された本を探して読む様になりました。今はエリック・マコーマックの『雲』を読んでいます。翻訳家を目指す上でのアドバイスを頂けたらとても嬉しいです。
(茨城県/10代/女性)

 高校生の読者ってすごく見えにくいので(なかなかイベントとかには来てもらえないので)、嬉しいです。『雲』を読んでもらえるのはとりわけ嬉しいです。どうもありがとう。とにかく英語をしっかり勉強してください。易しいものから始めて、原書も少しずつ読んでいくといいと思います。


質問12

Q. 英会話や聴き取り、発音などが苦手で、「読めるけど話せない」という典型的な日本人です。柴田さんは小説をよく音楽にたとえますが、その“音楽”を聴き取るためには英会話などにも力を入れた方が良いでしょうか? 
(神奈川県/30代/男性)

 喋れるに越したことはないですが、小説を翻訳する上で役に立つのは圧倒的に受験英語的な知識です。「読めるけど話せない」すぐれた翻訳者もたくさんいます。


質問13

Q. 今後、英語などの諸外国語で訳されている現代日本文学にスポットを当てた特集など組まれる予定はありますか。
(東京都/20代/男性)

 ある作品がどこでどう読まれているか、というテーマからは距離を置くようにしています。自分の価値判断抜きでものを言ってしまいそうなのが怖くて。


質問14

Q. ついつい読み返してしまう、自分で翻訳した作品はありますか?
(東京都/30代/女性)

 自分の翻訳は、朗読会などで必要があれば読み返しますが、「ついつい」は読み返さないですねえ……「なんだ、若いころの方が巧いじゃないか」とか発見してしまうのも怖いし。


質問15

Q. 『MONKEY』の次号のテーマ「うた」にちなんで、柴田さんがひそかに楽しく聴いている1曲を教えてください。
(北海道/20代/男性)

 Rickie Lee Jones, “I Won’t Grow Up” (『Pop Pop』所収)。


質問16

Q. ブライアン・エヴンソンが好きです。『遁走状態』は英語で読んでも面白いだろうと思い、洋書も購入しました。ブライアン・エヴンソンはまだ訳されていない作品も多いですが、今後も翻訳されるご予定はありますか?
(兵庫県/20代/女性)

 ありがとうございます。エヴンソンもっともっと出したいです。これまで短篇集2冊出したので、次は長篇で行くか、もうひとつ短篇集か、考えている最中です。


質問17

Q. カナダの移民文学に興味があり、いつかカナダ留学をするために英語を勉強中の大学生です。柴田さんは現代アメリカ文学がご専門ですが、アメリカやイギリスの文学と比較したときカナダ文学にはどんな特異性があると感じますか?
—— /20代/女性)

 カナダの作家の作品はそんなに読んでいなくて、文学的な勉強の知識が先に立ってしまうので、自分の見解としては何も言えないですねえ……いちばん好きなカナダ作家は、自分でも訳しているエリック・マコーマックで、彼の場合長年カナダに住んでいても、生まれ育ったスコットランドの空気を色濃く残していますから……でも、まさにそこが特徴かもしれないですね。アメリカだと、どこから来ようが、「アメリカの移民」であることを人に強いるけど、カナダはもう少し自分自身でいさせてくれるというか。
 カナダ移民文学で一番印象に残っているのは、Rohinton Mistry の短篇集『Swimming Lessons』の最後の一本。Mistryとおぼしき作家が書いた一連の短篇を、インドにいる両親が読んで、「なんでうちの子はこんなに悲しい話ばかり書くんだろうねえ。カナダにいて不幸せなんだろうか」と考える、という話。もちろんそれまでの短篇を読んだ積み重ねがこの一本に生きるんですが。


質問18

Q. SWITCHの本をオンラインで買うといつも格好いい封筒に入れて送ってもらえるのでとても嬉しいです。私は管楽器を演奏しているのですが、いつか演奏会で朗読をしたいと思っています。柴田さんは多くの朗読イベントなどされているので、演奏と朗読をうまく関連づけるなにかよいアイデアがあれば教えてください。
—— /30代/女性)

 オンラインでご購入いただくと何か特典があるように努めているのですが、封筒も気に入っていただけて嬉しいです。いい物語といい音楽が重なればたいていいい感じになるので、あまりがっちり組まず、即興性を大事にして本人たちが楽しめばいいのではないかと。


質問19

Q. 先日、手紙社さんが開催された「柴田元幸『いま、これ訳してます』」にも参加し、先生の朗読を楽しませていただきました。そのときに気になったのが先生の本棚です。先生はおそらく仕事柄、本をたくさんお持ちだと思われますが、どのように本棚を片付けられているのでしょうか。
(滋賀県/20代/——

 ZOOMで映った棚は、自分の本、それも文庫・新書が並べてある棚ですね。日本語の本は著者アイウエオ順、英語の本は著者アルファベット順、で一生分並べられるように書庫を作ったのですが、もう一杯になってしまい、そこらじゅう無秩序な山が出来ています……。


質問20

Q. MONKEY 20号で大竹伸朗さんの「探偵」コラージュがあり、「おっ!」と思ったのですが、柴田さんと大竹さんのつながりエピソードがございましたらお伺いしたいです。
(群馬県/40代/女性)

 大竹さんは大田区立六郷小学校卒、僕は大田区立仲六郷小学校卒です。


質問21

Q. 柴田先生は、原書を読んだときと、翻訳してからとで作品の解釈や印象が変わることはありますか。わたしは英語を英語のままで理解した(つもりになっている)ときよりも、日本語にしてみたときのほうが「あら案外いい小説」と思うことが多く、英語を読み切れていないのだなあとがっかりするのですが。
(東京都/40代/女性)

 いやー僕も「だいたいどういう話だっけなあ」と手っ取り早くわかりたいときは圧倒的に日本語に頼るし、訳してみて「あっそうかそういうことが書いてあったのか」と初めて気づくことも多いです。やっぱりいつまで経っても外国語だなあと思います。


質問22

Q. 小説のタイトルと作者名を教えて下さい。たしか『monkey bussiness』に掲載されていたと思うのですが、短編小説自身が短編小説の悲哀を嘆く……という内容です。面白かったのですが、タイトルも作者名も忘れてしまいました。長編小説に対して卑屈になる短編小説が可愛かったです。サイン会のときにはいつも緊張して話せませんが、柴田先生の活動を楽しみにしています。
(東京都/30代/女性)

 うーん、とても面白そうで僕も読みたいですが、掲載した/訳した/読んだ覚えはないなあ……すみません。ありがとうございます。緊張は無用です。ぜひ声をかけてください。


質問23

Q. 先日知り合いのアメリカ人から『A Confederacy of Dunces』という小説を勧められたのですが、調べたかぎりでは日本語訳が出ていないようです。いったいどんな内容の小説なのでしょうか? その人が言うにはけっこう笑える小説だということなのですが。
(東京都/20代/男性)

 現実をあんまりちゃんと見ていないのに言うことばかりは大きい若者とその母親の話が中心です。笑いもけっこう苦いです。作者が自殺して、そのあと(作品ではけっこう辛辣に描かれている)母親が全米を講演し……という話とか、そもそも出版に漕ぎつけるのに母親が有名作家にしつこく推薦を頼み込んで……とかいった作品外の話題もけっこうあります。20年以上前に、エッセイで軽く触れたことがあると思うのですが、どこで書いたか、思い出せず……。


質問24

Q. かなり昔に柴田先生が訳されたT・R・ピアソンの『甘美なる来世へ』という本がとても好きです。ユニークな文体とストーリーテリングでこんなクセのある小説をもっと読みたいと思わせてくれました。ピアソンの他の作品を訳される予定はないのでしょうか? または柴田先生オススメの変わった文体の小説があれば紹介していただけるとうれしいです。
(埼玉県/30代/女性)

 ピアソンを気に入っていただけて嬉しいです。あの本を出そう!と言ってくれた編集者が出版社を離れてしまい、かつ『甘美なる来世へ』は一部の方々は熱狂的に気に入ってくださったのですが売れ行きという点では芳しくなかったので、ピアソンはあれ一冊で止まってしまっています。ピアソンほど極端ではないですが、岸本佐知子さんが訳しているニコルソン・ベイカーも「ユニークな文体とストーリーテリング」という点ではなかなかのものです。特に『中二階』。


質問25

Q. 現実が想像を軽々と超えていく時代。本当と嘘、私とあなた、痛みと優しさ、空腹と満腹、そこに違いはあるのでしょうか? そして信じる力について、子供たちにどのように伝えていけばいいでしょうか?
(東京都/40代/女性)

 本当と噓、あたりの線引きはもしかしたら難しいかもしれませんが、空腹と満腹はやっぱり違うんじゃないでしょうか。「信じる力」一般について伝えるのは難しいし危険ではないかと思います。自分が何かを信じていることを一つひとつ個別的に見せていくしかないのでは……などと、やたら偉そうですが。


質問26

Q. アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』の柴田元幸版をつくるとしたら、これは必ず入れるだろう、という単語をいくつかお願いいたします。
(神奈川県/40代/女性)

 それがですねえ、「悪魔の辞典」、かなり苦手な本なのです。ああいう本は自分にある程度自信がないと作れないと思います。


質問27

Q. お仕事以外、趣味で読まれる本は、英語と日本語の本、どちらが多いですか。また、この人の文体はとくに好きだという米文学の作家がいたら教えてください。毎号、イラストも素敵で発売を楽しみにしています!
(東京都/40代/女性)

 恥ずかしいことに趣味で本を読む時間がまったくないです。趣味を仕事にしているのだとも言えるのかもしれませんが……だとすれば英語の本が多い、という答えになります。
 「この人の文体はとくに好き」→エリック・マコーマック。『雲』を訳して、ああ僕はこの人の書くものが本当に好きなんだなと思いました。まあでもそれをいえば、ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、スチュアート・ダイベック……みんな好きです。
 ありがとうございます。以前は言葉さえよければいいんだ、と思っていましたが、いい言葉にいいアートが加わればもっといいんだ、ということがMONKEYを始めてわかりました。


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