現在、今年4月にオープンした東京・神田ポートビルで、写真家ただによる写真展「外から見る」が開催中だ。
Photography: Tada
ポートレイトや物撮りなどを中心として、書籍や雑誌、広告など幅広い分野で活躍するただ。近年ではスチールだけではなく映像撮影などにも活動の幅を広げ、その表現方法もつねに開拓し続けている。
東京のまちを舞台に2年に1度開催する国際芸術祭「東京ビエンナーレ」の一環となる同展は、2013年の招致決定から現在にいたるまでさまざまな議論を巻き起こしている東京オリンピックにフォーカスを当て、特殊な状況下が生み出した「見えないもの」を伝えることをテーマとしたものだ。
東京オリンピック・パラリンピックの主会場にすることを念頭に、2019年に誕生した新国立競技場。その背後は3つのストーリーがあるとただは語る。1つは取り壊しによって失われた旧国立競技場。もう一つはザハ・ハディドによる設計プラン。そして、無観客で競技が行われた会場内。
かつて存在したもの、存在したかもしれないもの、存在するにも関わらず見ることができないもの。物理的には存在するものを収めることしかできない写真表現において、東京オリンピックを取り巻く目には映らないものの存在を、ただはどのように表現したのだろうか。ぜひ会場で確かめてほしい。
Statement
オリンピックを開催するにあたり、すったもんだを引き起こした国立競技場にまつわる一連のエピソードは、世間一般にも広く取り沙汰されたこともあり、まだまだ記憶に新しいかと思います。これはザハ・ハディド氏による設計プランが公開されたことに端を発しますが、結果的にあちらこちらで活発な議論を生むこととなりました。
2014年7月5日、神宮外苑にある明治公園にて、旧国立競技場を残したいと考える市民や有志建築家たちが集まり、取り壊しへの大規模な反対集会が行われました。新競技場のあまりに大きすぎるそのサイズや周辺環境との不調和を指摘し、旧国立を再整備して活用しようという趣旨の集まりで、現地はたくさんの人出だったようです。私は事後的にニュースで知っただけでしたが、個人的にとりわけ印象的だったのは、その主張を伝えるための表現方法でした。完成時には地上75mにも達する新競技場の巨大さをアピールするためにとられた方法は、たくさんの赤い風船を用意し、同じ高さ75mまで揚げるというものでした。ないものを撮影することはできない、取り扱えない写真と比べ、『まだ眼前に存在しないものを可視化し、伝える』方法としてこんなやり方があったかと感心したのを憶えています。
その後、紆余曲折を経て現在の建造物が完成するのはご存知のとおりですが、この競技場をめぐるストーリーには3つの「見えないもの」が登場します。一つは取り壊しによって失われた旧国立競技場。もう一つは実現しなかったザハ設計によるスタジアム。そして、無観客で競技が行われることになったその会場の内側。最後の一つに関しては、テレビ中継を通して見ることはできましたが、画面を眺めるだけでも体験したように私たちが感じられるのは、経験値と想像力があってこそです。かつてあったもの、ありえたはずのもの、あるけれども見れないもの、どれも写真に収めることはできませんが、赤い風船を飛ばすようにして、そこから立ち登るイメージを捕まえられないものだろうか、そんな想いで製作された写真展です。
また、この展示はANAインターコンチネンタルホテル東京で現在開催中のグループ展「からだと、その他」と対をなす展覧会です。そちらでは、2015年に製作した旧国立競技場を撮影した写真集「からだと、その他」に収録されている写真を再掲しております。かつてあったものと、今見えないものたちを行き来しつつ、両者の間にあるその差と過ぎ去った時間を感じていただければ幸いです。ぜひ足をお運びください。
ただ
展覧会 | ただ「外から見る」 |
期間 | 2021年8月18日(水)-9月5日(日) 11時30分-20時 *会期中無休/最終日19時まで |
会場 | 神田ポート (東京都千代田区神田錦町3-9 神田ポートビル1F) |
備考 | 神田ポートでは、会期中に会場を写真スタジオとして使用することがあるため、その際は一時的にクローズとなります。
【近日中クローズ日程】 |