「本当に“俳優”だけで特集が作れるんですか? 僕の半分はお笑いだからねえ……。本当に大丈夫ですか?」
そう大泉洋は今回の特集制作中に何度も口にした。もちろん、お馴染み「水曜どうでしょう」や数々のバラエティ番組での大泉洋にはこれまで数え切れないほど大笑いさせてもらってきたが、それと同じくらい、いやそれ以上に大泉洋の俳優としての表現に惹きつけられてきたこちらとしては、そんな大泉の言葉は意外なものだった。しかし、インタビューを重ねるにつれ、その言葉は謙遜でも誇張でもなく、彼の本心から出たものだということが徐々にわかってきた。
全66ページに及ぶ巻頭特集のなかでもメインコンテンツとなるのが、おそらくこれまで様々なメディアに掲載されてきた中でも最長となる、約25,000字にわたる大泉洋ロングインタビューである。自身の20代、30代、40代の“俳優としての”キャリアを紐解いていくこのインタビューでは、「いかにして相手を笑わせるか」を常に考え、爆笑エピソードを次々と披露するいつもの大泉洋ではなく、一人の俳優として彼がこれまで抱えてきた様々な葛藤や決意、そして出演作品への思いが真摯に語られていく。
なぜ大泉洋は「タレント」ではなく「俳優」として東京での活動をスタートさせたのか。自身が考える「俳優大泉洋」としての存在を確立させた作品とは。主演俳優を引き受けることへの責任と重圧とは……。今回の数々の取材の中でも、大泉洋という人物の新たな一面を最も垣間見ることができたのが、このロングインタビューだった。
一方、「自分にとって唯一の憧れの存在」と大泉自身が明かす演出家三谷幸喜との特別対談では、いかにして三谷幸喜が俳優大泉洋を見出していったのか、三谷流のジョーク(?)に大泉がタジタジになりながらも応戦していく様が読みどころ。また、現在のコロナ禍を予見したかのような公演中の舞台「大地」(作・演出:三谷幸喜/出演:大泉洋ほか)へのそれぞれの思いも深く語られる。「大地」稽古場ドキュメントフォトや共演者たちの言葉からも、芝居にかける大泉のひたむきな姿勢が浮かび上がってくる。
そして、若き日の俳優大泉洋について語るのは、クリエイティブオフィスキューの元社長であり、「水曜どうでしょう」での大泉との名コンビで知られる鈴井貴之と、大学時代の演劇研究会から大泉と活動を共にしてきたTEAM NACSのリーダー森崎博之。鈴井が考える大泉洋の俳優としての資質や、森崎が語る学生時代の大泉の意外な一面など、古くから彼を知る二人ならではの発言はさすがの説得力が感じられるものだった。
特集後半では大泉洋がこれまで出演してきた数々のドラマ、映画、舞台の中から10作品をピックアップ。大泉自身による撮影時のエピソードに加え、役所広司(『清須会議』)、松田龍平(『探偵はBARにいる』シリーズ)、小松菜奈(『恋は雨上がりのように』)ら共演者陣、そしてそれぞれの監督、演出家が “俳優大泉洋の魅力”を語っていく。なぜ大泉洋は多くの映画監督や演出家から求められるのか、共演俳優から慕われるのか、その秘密が解き明かされていく。
「大泉ってね、ああ見えて真面目なんですよ」。取材中、鈴井貴之は言った。既にそれまで何度か大泉へのインタビューを行い、また数年前からTEAM NACSの稽古場取材などを通して見てきた俳優大泉洋の印象と鈴井のその言葉は、完全に一致するものだった。大泉本人はそうしたキャラクターを前面に打ち出すことはあまりないが、今回の大泉への取材から、そして彼と仕事を共にしてきた作り手たちの大泉に対する発言からは、大泉洋という人物がいかに表現に対して真摯な姿勢で向き合い、全力で取り組んでいるのか、明確に伝わってきた。
そうした意味では、本特集は「タレント」大泉洋のファンにとっては肩透かしなものになるのかもしれない。ここには大泉曰く「自分の半分」しか記されていないのだから。しかし、もう半分の「俳優大泉洋」を知ることで、より深く大泉洋という類稀な表現者の持つ魅力は確かに伝わるだろう。是非本誌を手に取って、大泉洋の新たな一面を知ってほしいと思う。
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